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あすなろ152 胡瓜とソグド人(過去記事再掲)

2018年3月6日投稿

 

 

 

2014.06号

 

我が家には幼稚園児がいます。
この園児が通っている幼稚園は、週三回が弁当となっています。
なので私は週三回、弁当を作っています。
上の子二人の時は、別の幼稚園だったのですが、そちらは毎日弁当だったので、以前は毎朝弁当を作っていました。

 

とはいえ、初めての朝はもう、どうしましょう状態でしたよ。
弁当を作るのなんて、中学生の頃、母親が入院していた時に自分の弁当を一度だけ作ったこと以来でしたので。

 

幼稚園弁当初日の朝は、だいたい出来たところでカミサンが見に来て、
「おお、ちゃんと弁当になってる」
「うん。自分でもびっくり」
なんて会話があったことを覚えています。

 

さて、あれから十年。
あの頃の気合いはどこに行ってしまったのでしょう。
現在の我が家では朝になると、超テキトー弁当が生産されています。

 

幼稚園児の弁当なんて簡単なんですよね。
なんせ小さいので、おかずは三品もあれば十分です。
というか、それ以上入りません。

 

そしてその三つのうち、一つから二つは前の晩のおかずですから。
カミサン謹製のおかずを、弁当用にあらかじめ一皿ずつ取り分けてもらっておけば、もう一品から二品が完成しているという塩梅です。

 

あと残りのスペースは、卵焼き・プチトマト・塩漬けキュウリあたりからの選択方式となっております。
たまに冷凍シューマイが混ざることがあったり、弁当箱全面がオムライスになることもありますが、手間は全くかかっておりません。

 

オムライスったって、具は前夜の野菜炒めのみじん切りで十分です。
前の晩がカレーだったら、カレーライスを水気がなくなるまで炒めた「嘘っぱちドライカレー」を卵に包んじゃいます。

 

それはともかく、上の子二人の時には、ほぼ毎日が卵焼き+プチトマト+前の晩のおかずという組み合わせでした。
が、末っ子はトマトがあんまりは好きじゃないということなので、卵焼き+キュウリの組み合わせの確率が非常に高くなっております。

 

なんて言うと、幼稚園同級生のお母様には「え?キュウリ食べるの?」と驚かれることもありますが、ええ、うちの子はキュウリ好きですよ。

 

そんなわけで、キュウリさまには、日々大変お世話になっております。
今後ともよろしくお願いいたします。

 

と、ついキュウリのことは片仮名で書いてしまうのですが、本来は漢字の言葉ですね。
ご存じでしょうが「胡瓜」と書きます。

 

この字のうち、瓜はもちろんウリです。
では、「胡」が何のことかご存じでしょうか。

 

かつて、シルクロード貿易が盛んだった頃、そのルート上では様々な民族がその仲介をしていました。
その中でも、一時期はシルクロードを経済的に支配していた民族として、ソグド人という人々がいました。

 

ソグド人自体は、古くは紀元前5世紀頃から記録があるようです。
かつては中央アジアのタジキスタンあたりで農業と商業をして暮らしていたようですが、紀元前1世紀ごろにシルクロードが漢に通じるようになると、漢と西アジアとの中間貿易を支配するようになります。
そして、この頃から唐代の頃まで、ソグド人のいる地域は「西胡」、ソグド人は「胡人」と呼ばれるようになります。

 

……というような「胡人」の話を、私は高校の頃、世界史の授業中に知ったんですよ。

 

でも、現在の高校生の世界史の教科書を見ても、「ソグド人」は出てきても、「胡人」という言葉は出てこないんですよね。
昔と違って無くなっちゃったのかなあ、と思ったのですが、高校の授業で聞いたあの話は、もしかしたら社会の先生がアドリブでしゃべっただけの単なる余談だったのかもしれません。

 

ともかく、キュウリはこの頃、「胡」から唐に伝わった瓜ということで、「胡瓜」と呼ばれ始めたようです。
これは、日本で言うところのサツマイモ(薩摩地方から来た芋)やジャガイモ(ジャガタラ=現在のジャカルタから来た芋)みたいなものですね。

 

胡という字がつく言葉としては、他に「胡麻(ごま)」、「胡椒(こしょう)」、「胡弓(こきゅう)」、「胡桃(くるみ)」、さらには「胡座(あぐら)」、ちょっとマイナーですが「胡粉(ごふん)」などがあります。
ウィキペディアを見ると、「胡散臭い(うさんくさい)」なんて言葉まで投稿されています。

 

ただ、これらがすべて胡人(ソグド人)と関係があるというわけではないようです。
が、少なくとも、胡麻、胡椒、胡桃、胡粉は、胡人由来のものとされています。
ここで、胡粉とはおしろいの一種です。

 

胡弓は、バイオリンのように弾く日本の伝統楽器です。
明治の頃は、バイオリンそのものも胡弓と呼ばれることがありました。
ただし伝統とはいっても、胡弓という言葉が登場するのは、江戸時代の頃からのようです。
胡弓の原型である胡琴(こきん)の胡は、胡人由来のものらしいので、
「胡弓の胡は胡琴から来た言葉で、胡人と直接は関係ない」
というややこしいことになっています。

 

なお、江戸時代には、胡弓は三味線、琴と共に、「三曲」と呼ばれる弦楽器三重奏として演奏されていたようです。

 

しかし「胡散臭い」の胡は、胡人とは全く関係ないようです。
「胡散」は元々は「胡乱(うろん)」と言われていて、胡も乱も共に「乱れる」を表す語で、「乱れたさま」「あやしげなさま」という意味から来ています。

 

胡座の場合、古事記では「阿具良」と書かれていることから、「あぐら」という語は、元々日本にあった言葉のようです。
これは、古代の貴族の座る高い台の呼称から来ているとのことです。
後に、胡座という字がなぜ充てられるようになったのかは、調べた限りではわかりませんでした。
胡乱同様「乱れる」という意味から来ているのかもしれません。

 

さて、胡人=ソグド人はこの頃、独自の文化、言葉、文字を持っていたのですが、国家という形にはなっていませんでした。
軍事的政治的には他民族の支配下でも、商業的ネットワークには長けた民族だったようです。

 

そしてその後も国家を建てないまま、中央アジアの各地に散らばっていきます。
各地に文化的影響を与えながらも、最後は現在のトルキスタン(○○スタンが集まっている地域)やウイグルに溶け込んでいったようです。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義