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あすなろ166 虫の声の聞こえ方?(過去記事)

2018年4月3日投稿

 

 

 

2015.08号

 

最近聞いた話。

 

虫の鳴き声を聞くとき、日本人はそれを「言語」として聞くが、西洋人は「雑音」としか聞かないし聞こえない、とかなんとか。

それは脳の働きが違うとか。

 

んん~~?

脳だとお?

ホントかそれ??

 

どうも私は、そういう

「科学っぽい用語の入ったもっともらしい話」

からは、エセ科学臭さを感じてしまうのです。

 

まずは、原文に近いと思われる物を一部引用してみます。

(何カ所か中略しています)

 


東京医科歯科大学の角田忠信教授がキューバで開かれた国際学会に参加した時の事である。

教授は会場を覆う激しい「虫の音」に気をとられていた。

なるほど暑い国だな、と感心して、周囲の人に何という虫かと尋ねてみたが、だれも何も聞こえないという。

ようやくパーティが終わって、キューバ人の若い男女二人と帰途についたが、静かな夜道には、さきほどよりももっと激しく虫の音が聞こえる。

教授が何度も虫の鳴く草むらを指して示しても、二人は立ち止まって真剣に聴き入るのだが、何も聞こえないようだ。

3日目になってようやく男性は虫の音に気づくようになった。

しかし、それ以上の感心は示さなかった。

女性の方は、ついに一週間しても分からないままで終わった。


 

ここまでの話に限れば、私なりには一応納得いく話ではあります。

 

確かに平均的西洋人は、日本人のようには虫の声に興味を持ちません。

というよりそもそも、害虫以外に興味がありません。

そのため、例えば明治期に来日したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、日本では虫が売られていて、人々は虫の音を楽しむという行為を、日本独特の文化として紹介しています。

 

注:

小泉八雲は、明治期に日本で見聞きした文化を英文で書いたイギリス人です。

日本人女性と結婚して日本に帰化しました。

代表作に「怪談」など。

 

西洋人が伝統的に虫に対して興味が浅い証拠としては、虫を表す語が単調であることからも推測できます。

 

日本語の虫の名前には、○○ムシになるものと○○ムシにならないものがあります。

例えば前者はカブトムシ、カメムシ、スズムシなどで、後者はハチ、ハエ、トンボなどです。

英語の場合は、このムシにあたる言葉がバグbug=歩く虫、ワームworm=いも虫、フライfly=飛ぶ虫あたりなのですが、虫の名前を英訳すると、日本語よりも明らかに、○○バグか○○フライになる場合が多いです。

 

もちろん、アリant、ハチbee、コオロギcricketなどの言葉もあります。

しかし、バッタは「草跳びgrasshopper」でミミズは「地面イモムシearthworm」というように「熟語」になっていたり、ムカデCentipedeはラテン語そのものだったりしますので、日本語よりも比較的新しい単語が多いことがわかります。

ただし、日本でもチョウ(蝶)のように漢語から来ている「外来語」もあります。

 

また、キリギリスやカゲロウなど、日本語に相当する英語がないこともあります。

さらには、セミcicadaが鳴くことはあっても、その辺のアメリカ人はセミという単語を知らなかったりします。

日本のように、映画やテレビで蝉の鳴き声を「夏の効果音」として使うこともありません。

 

西洋というのはそんな文化ですので、わざわざ虫の声なんぞを聞こうという意識は、最初からない、と言われても、全く不思議ではありません。

 

さらに、虫の声というものは、ものによっては音の高さ(周波数)の関係で人や鳥、犬、猫などの声と比べると「異質な音」となる場合がありますので、ものによっては、聞こうという意識がないと聞こえません

 

人間は、聞く必要のない音は、無意識下に遮断することがあります。

雨の音やエアコンの風の音、時計のチクタク音などは、ふと気付くと音が消えていたような錯覚に陥ることがあります。

虫の声というものを、普段からこのような「雑音」として捉えていると、「聞こえるけど聞こえない」ということになる可能性も、確かにあります。

 

しかし日本人の場合は、セミにせよコオロギにせよ、「虫の声を季節として捉える」という文化がありますので、子供の頃からそういう音を意識して聞く習慣があります。

しかも、「鈴虫はリーンリーン、松虫はチンチロリン」と、音を日本語に「翻訳」しているために、雑音ではなく言葉として捉えやすいのだろうと思います。

 

その上、虫の声は先に述べたとおり、周波数が特殊な場合があります。

 

音の高さを周波数で表すと、人間の耳の可聴域は、20~20000Hz(数字が大きい方が高音)ということになっています。

 

しかし、人間の出せる声は400~1000Hzが限界です。

また、ピアノの音は27.5~4186Hzで、これが音楽として使われる音の最大範囲(ピアノの音域を超える楽器はトライアングルとシンバルくらい)ですので、これよりも高い音や低い音は、普通の人にとっては「聞く必要の無い音」とも言えます。

 

ところが、キリギリス類の声は、10000Hzを超えるものがゴロゴロいます。

16000Hzというのもいますが、このくらいになってくると、人間に聞こえる限界に近い音です。

例えばクビキリギスの鳴き声は「ジ――」というように聞こえながらも、耳がツーンとなるような感じがします。

実は、この「ツーン」が、本来の鳴き声なのです。

 

最近は、「モスキート音」という言葉がありまして、

「人間の聞こえる限界近い高音で、若者には聞こえるけどオトナには聞こえないという音」

のことを言うようですが、要するにそんな音の高さです。

ただし、本当の蚊(モスキート)の羽音は350~600Hzしかありません。

 

さらに、バッタ類のように、シャカシャカという「かすれ声」のような音質で鳴くものもいます。

このような音になってくると、「虫の声が聞こえるはずの日本人(笑)」でも、

「今鳴いてるね」

「え?わかんない」

という会話になることがあります。

 

秋の虫の声をある程度勉強した私でも、色々な声が混ざっているときには、聞きたい音に合わせて、意識的に「耳のチャンネル切り替え」をしないと、目的の音を聞き出せないこともあります。

 

というわけですので、まあここまでは良しとします。

しかし……

 


左右の耳に同時に違ったメロディーを流して、その後で、どちらのメロディーを聴きとれたかを調べると、常に左耳から聴いた方がよく認識されている事が分かる。
同様に、違う言葉を左右から同時に聴かせると、右耳、すなわち左脳の方がよく認識する。


 

これはない(笑)

 

「三角法」という、鳴く虫の位置を耳で聞きながら特定する手法があるのですが、左右で聞こえ方が違ったら、虫は探せませんね。

 

というわけで、私の中ではエセ科学決定となりました。

あー残念残念。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義