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あすなろ84 伝説上の怪物達(過去記事)

2018年12月7日投稿

 

 

 

2008.10号

 

きっかけは確か、メフィストという英単語だったような気がします。

高校生が、英和辞典に載っていたその容姿を見て、山羊の足などに笑っていましたので、ああ知らなかったのか、と。

神話などには、半人半獣が数多く登場するなんてことを、パン、ミノタウロス、鵺(ぬえ)などの例を挙げて、少しお話しました。

そんな話を、今回のネタに取り上げて欲しいということでしたので、以下にレポートします。

 

神話には、必ずといっていいほど怪物が登場します。

そこに描かれる容姿は、大抵が人間よりも大きく、さらに多くは異形(いぎょう)のものです。

 

その、異形の姿をあらわす一番多い手法が、異なる動物を組み合わせることです。

 

異種混合の代表的なものに、ギリシャ神話のキマイラ(キメラ)があります。

獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つといわれています。

さらにはそれぞれの頭を持つという説もありまして、ゲームや小説などに使われるときには、頭を三つ持つ動物として描かれることが多いようです。

最近ではこれに蝙蝠の翼をつけることも多いのですが、マンティコラとどこかで混ざってしまったのでしょうか。

なお、マンティコラとは、獅子の体に蝙蝠の翼と毒針の尾を持つ怪物ですが、これも最初は翼が無かったものが、伝わっていくうちに生えたということです。

要するに昔も今も、やっていることは変わらないというわけですね。


紀元前のキマイラ

 

近頃のキマイラ(部品が増えてる)


ちなみに、生物学用語にもキメラ胚、キメラ細胞などという言葉があり、やはり異種混合という意味合いを持ちます。

 

もう一つ有名どころでは、スフィンクスも異種混合の怪物です。

 

スフィンクスといえば、「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足とは何か」という謎かけをして、解けない人間を食らう話が有名です。

ところが、この話のスフィンクスとエジプトのスフィンクスとは、本来は違うもののようです。

 

エジプトのスフィンクスは、ファラオの頭と獅子の体を持つ姿で、神聖なる守護者です。

対して、ギリシャ神話におけるスフィンクス(スピンクス)は、獅子の体に人間の上半身を組み合わせて、さらに翼を持った姿でした。

別物ですね。


エジプト版スフィンクス

 

ギリシャ版スピンクス


というかそもそも、人間を捕らえて食うような怪物が聖なる王家の墓の番人になるって、普通は話がつながりませんわな。

鬼子母神じゃあるまいし。

 

さて、日本にもこのような話は多くあります。

その代表は、先に挙げた鵺でしょう。

 

鵺は元々、夜に鳴く不気味な声のことを指していたようです。

(→古事記、万葉集)

この声の正体は、現在ではトラツグミという鳥だろうと言われています。

 

トラツグミは、私の自宅の近所にもいます。

夜中の森で「ひぃ~」と鳴くかわいい奴です。


トラツグミ


 

しかし平安時代末期、鵺が姿を現して退治される、という話が残っています。

(→平家物語)

 

ある時、時の帝(近衛天皇?)の住む御所に、夜な夜な黒煙と共に不気味な鳴き声が響き渡るようになり、帝は病に伏せってしまいます。

これを怪物の仕業と見た側近は、弓の名人である源頼政に怪物退治を命じます。

 

頼政が見守る中、猿の顔、狸の胴体、虎の手足、蛇の尾を持つ化け物が、黒煙より姿を現します。



頼政は先祖より受け継いだ弓にて矢を放つと、化け物は二条城の北方に落下しました。

すかさず郎党が取り押さえてとどめを刺しますと、天皇の病状は忽ち回復した、ということです。

 

ところで、この頼政に弓を残した先祖である源頼光は、鬼や土蜘蛛の討伐をしています。

 

今度は源頼光の時代のお話。

 

平安時代中期の、とある頃。

京の大江山に、酒呑童子と呼ばれる鬼が住み着きました。

酒呑童子は数多くの鬼を従え、姫君をさらっては仕えさせたり食ったりしていました。

そこで帝の命により、源頼光と頼光四天王を始めとする討伐隊が編制されます。

 

頼光の一行は、鬼と共に酒盛りをして安心させたところで神便鬼毒酒という不思議な酒を飲ませ、神通力を奪って寝首をかくことに成功しました。

首を切られた酒呑童子は、頼光の兜に噛みついたまま事切れたと言われています。

 

さてこの時、鬼の家来達もほとんどが退治されたのですが、一匹だけ逃げおおせた鬼がいました。

この鬼は茨木童子という名で、酒呑童子の側近でした。

しかしその後、頼光四天王の筆頭である渡辺綱と、再び相まみえることになります。

 

綱が夜中に一条戻橋を通りかかると、若い女が家に送って欲しいと言います。

怪しみながらも馬に乗せると、女はたちまち鬼に姿を変え、綱の髪を掴んで愛宕山の方へ飛んでいきました。

そこで綱はその腕を切り落とし、難を逃れます。


鬼の腕を切り落とす渡辺綱


綱は腕を屋敷に持ち帰りますが、鬼は義母に化けて現れ、腕を見せて欲しいと泣きだします。

やむなく綱が腕を見せると、手にとって眺めていた義母は突然鬼の姿に変わり、腕を取り戻して飛んでいったということです。

(→以上全て平家物語)

 

さて、これらの話の興味深い点は、基本的に実在の人物や地名が登場するところです。

 

鵺を退治した源頼政は、保元の乱や平治の乱に参戦しています。

 

酒呑童子を討伐した源頼光は、藤原道長に側近として仕えていました。

頼光の詠んだ和歌も残っています。

 

渡辺綱は、源平争乱期から南北朝時代にかけて、水軍を率いて活躍しました。

 

そしてこれらの出典である平家物語の内容は、基本的に史実だとされていることはご存じの通りです。

 

さあて、どこまで本当なんでしょう?

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義