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あすなろ178 蟲のこゑ(過去記事)

2018年4月3日投稿

 

 

 

2016.08号

 

今年も7月になった頃から、ニイニイゼミが鳴き始めました。

そろそろそんな季節です。

 

セミの声は、おおよそ今がシーズン開始となるわけですが、キリギリスコオロギ類においては、すでに春先からシーズン入りしています。

が、ここであんまり細かい話をしても誰もついてこないと思いますので、もっと基礎知識のお話をします。

 

唱歌「虫のこえ」はご存じかと思います。

いわゆる秋の虫の声は、この歌によって知った方も多いと思います。

というか、ほとんどの方がこれで覚えたのではないかと思っていますので、これに沿って話をしていきます。

 

とりあえず、歌詞の確認です。

 


蟲のこゑ

一、

あれ松蟲が鳴いてゐる。

ちんちろちんちろ ちんちろりん。

あれ鈴蟲も鳴きだした。

りんりんりんりん りいんりん。

あきの夜長を鳴き通す

あヽおもしろい蟲のこゑ。

二、

きりきりきりきり きりぎりす。

がちやがちやがちやがちや くつわ蟲。

あとから馬おひおひついて

ちよんちよんちよんちよん すいつちよん。

秋の夜長を鳴き通す

あヽおもしろい蟲のこゑ。


 

初出は1910年です。

この歌詞で「きりぎりす」だった部分は、1932年には「こほろぎや」に改められています。

 

さて、ここに色々な虫の名前が登場したのですが、それぞれの姿を想像できますか?

 

最初に登場する「松蟲」ことマツムシは、こんな昆虫です。

 

 

鳴き声は「ちんちろりん」とありまして、図鑑でも大抵はそうなっていますが、実際に聞くと「ピッピリリッ」というような声です。

音が鋭いために、ちょっと電子音っぽい感じがするかもしれません。

筑波周辺でも鳴き声は確認しましたが、草深い所にいますので、姿を見る機会は滅多にないかもしれません。

 

次の「鈴蟲」ことスズムシは有名ですね。

時には生体が店頭販売もされています。

 

 

鳴き声は「りいんりん」は、図鑑でも「リーン リーン」となっています。

実際に飼うとそんな声で鳴くのですが、野外では「リリリリリ リリリリリ」と鳴いていることの方が多いと思います。

これは「呼び鳴き」というもので、単独ではこちらが普通の鳴き方です。

対して前者の「口説き鳴き」は、メスが近くにいるときだけ使われます。

飼育下では、オスもメスも高密度でいますので、口説き鳴きばかりになってしまっているだけです。

 

次の「きりぎりす」改め「こほろぎ」は、一度は見たことはあると思います。

 

 

コオロギの種類はかなりありますので、今回は代表としてエンマコオロギを上げてみました。

よく見かける中では一番大きい種類です。

これの鳴き方は、図鑑上で「コロコロリー」と聞きなされています。

実音では、「コロコロ」の部分が、歌詞のように「きりきり」に聞こえなくもないです。

他に、よく耳にするツヅレサセコオロギやハラオカメコオロギあたりだとしても、「リーリー」や「リッリッリッ」が「きりきり」と聞けなくもないですから、「こほろぎ」の鳴き声としては、おおよそ間違っていないでしょう。

 

次は「くつわ蟲」ことクツワムシです。

 

歌の通り、鳴き声はガチャガチャです。

シャカシャカともシャキシャキとも聞こえます。

もしかしたらモーターのような機械音っぽく聞こえるかもしれません。

音量はかなり大きめですので、一度でも聞けばすぐにわかります。

雑木林の周辺などの深い草むらあたりでよく聞かれます。

 

「馬おひ」ことウマオイは、別名がスイッチョンと言われる通り、「スイーッチョ」または「シーッチョ」を涼やかに繰り返して鳴き続けます。

これも深い草むらにいます。

 

クツワムシとウマオイは、キリギリスの仲間です。

先に紹介した三種はコオロギの仲間で、翅(はね)を立てて鳴くのですが、この二種は鳴くときも翅は立てません。

 

 

一方、歌詞の中では途中で消えてしまったキリギリスは、「ギイーーッ ・・・ チョン」と鳴きます。

 

 

さて、歌詞が「きりぎりす」から「こほろぎ」に改められた理由は、

「昔はキリギリスとコオロギの呼び名は逆だったから」

「キリキリという鳴き声は今で言うところのコオロギだから」

と書いてあるのを見かけます。

 

しかしこの、昔は昔はという昔って、果たしていつごろのことなのか、ちょっと怪しいんですよね。

確かに平安時代はそうでした。

スズムシとマツムシの呼び名も逆でした。

カネタタキの鳴き声はミノムシの鳴き声だと思われていました。

しかし、明治も明けた1910年当時も平安時代と同じ呼び方だった……? なんていう話は、素直に信じられないんですよ。

 

このあたりは、機会がありましたら、当時の図鑑などを調べて確認してみようと思います。

まあ、そのうちに。

 

あと、さらに邪推すれば、作者はキリギリスの鳴き声を知らなくて、

「キリギリスだからキリキリなんじゃね?」

なんて考えた可能性もゼロではありません。

こちらは作者の名誉のために、そうじゃないと信じることにしますが。

 

ただ私としては、さらに全く別の理由で変えたのではないか、と思ってもいます。

それは、キリギリスは「あーきのよながをなきとお」さない、真夏の昼間に鳴く虫だからです。

夜に鳴くこともあるそうですが、普通は暗くなったら静まりますし、10月になったら既にいなくなっています。

夏の日差しの中、セミの声をバックに鳴くような虫なのです。

 

しかし、子供向けの本では「秋の虫」にキリギリスが入っていることがあります。

時折あります。

……いや、時折どころじゃないですね。

結構よくあります。

 

でも残念ですがハズレでーす。

でーす。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義