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あすなろ115 原子力(過去記事)

2018年6月8日投稿

 

 

 

2011.05号

 

今、福島は世界の「Fukushima」へ。

 

……なんて冗談言っている場合じゃないのですが、世界的には実際に、超有名な地名になってしまいましたね。

どちらかといえば、むしろ

って感じでしょうが。

 

原子力発電所の仕組みは、原子力によって湯を沸かして、その蒸気でタービンを回して、……というあたりまでは知っていたのですが、私もその仕組みを完全には理解していませんでした。

この機会に調べてみましたので、わかったことをここに書き上げてみようと思います。

 

まず、電気を起こす方法から。

 

中二で習いますが、モーターを回すと電気が起きます。

電磁誘導というやつですね。

これが発電機の原理です。

つまり、何らかの方法で発電機を回すことができれば、電気が作れるということです。

 

これを風車で回しているのが風力発電です。

水車で回せば水力発電となります。

火力発電と原子力発電は、熱で湯を沸かして、その蒸気の力でタービンと呼ばれる羽を回しています。

太陽光発電に限ってはは少し違うのですが、それ以外は、基本はだいたい同じ仕組みで発電されています。

 

それでは、原子力はどういう原理で熱を出すのか。

少々細かい話になります。

 

全ての物質は、原子が集まってできています。

その原子にはいろいろな種類があって、水素とか酸素とか鉄とかあるわけですね。

 

原子には、中心に原子核というものがあります。

そしてこの中には、一定の重さの、2種類の粒が何個かずつ入っています。

片方は、陽子(ようし)という名前で、プラスの電気を帯びています。

もう一方は中性子(ちゅうせいし)と言って、電気は帯びていない単なる粒です。

そして、このうち陽子が入っている数によって、原子の種類がきまります。

また、陽子と中性子は、ほぼ同じ重さです。

 

例えば酸素は、陽子と中性子がそれぞれ8個ずつ入っていますので、合わせて16個分の重さがあります。

これが鉄になると、それぞれ26個と30個入っていますので、合わせて56の重さになります。

 

ウランという金属があります。

自然界にある中で、大きさあたりの重さが一番大きい物質です。

ウランの原子核には、陽子が92個、中性子が146個も入っていて、合わせて238個もの粒が入っています。

そして、ここまでのものになってくると、時々原子核が壊れます。

するとその時に、エネルギーを出すことがあります。

そういった壊れ方・エネルギーの放出具合をうまく制御して、一定の熱を発生させるのが、原子力という仕組みです。

 

ウランの原子核は、ほおって置いても勝手に壊れるのですが、それだけでは湯を沸かすようなエネルギーになってくれません。

そこで、ウランの中でも、壊れやすい状態のものを、沢山集めることから始めます。

 

実は、同じウランでも、たまーに中性子が143個のもの(ウラン235)があります。

そしてこちらは、146個のもの(ウラン238)よりも不安定で、壊れやすい――つまり、エネルギーを取り出しやすい状態になっています。

そこで、この割合を増やしたものを作ります。

これが核燃料と呼ばれるものです。

具体的には、天然の0.72%の状態から、3~5%程度まで濃縮された物が使われます。

一方、これが核兵器になると、90%以上まで濃縮されたものが使われます。

 

そして、集めたウラン235に、ある一定速度で中性子をぶつけます。

すると中性子を取り込んでさらに不安定になったウラン236の原子核は、壊れて二つに分裂してしまいます。

この時、ただ分裂するだけではなくて、2~3個の中性子を放出します。

放出された中性子は、また別のウランを分裂させて……といった反応が、次々と起こります。


ウランに中性子がぶつかると、別の物質へと分裂しながらまた中性子を放出する


原子核は、壊れるたびに大量のエネルギーを放出します。

従って、この反応が連鎖的に次々と起こっていくと、ものすごい熱を出し続けることになります。

この連鎖反応が、上手くつながった状態が「臨界(りんかい)」と呼ばれるものです。

 

こういった核分裂反応は、勝手に反応が続いていってしまうので、放置するととんでもない熱量を発生してしまいます。

そこで、これを一定の状態に保つように調整する必要があります。

その手段が、吸収と冷却です。

 

冷却は、文字通り冷やすことです。

熱を持ちすぎると、固体の核燃料が溶け出してしまって、周囲の炉を侵します。

そうすると、中身が漏れ出てしまうことになりますので、それを防ぐために、日本の原子炉では主に水で冷やします。

こういう方式の原子炉を軽水炉と呼びます。

 

また、飛び散る中性子を吸収すれば、それ以上の連鎖反応は起こりません。

そこで、核燃料は、普段は中性子を吸収する物質で包まれています。

原子炉の中で反応を進めるときには、この制御物質(制御棒)を少しずつ抜いて、出力を調整します。

 

ところで、分裂で飛び散る中性子は、かなりの速度が出ています。

しかしその速度では、核分裂の効率があまりよくありません。

そこで、中性子の速度を下げるための減速材として、日本の原発では水が使われています。

もちろん、中性子が外に逃げていってもまた効率が下がりますので、原子炉の内壁は、中性子を反射するもので覆われています。

 

それでも、実際に発生する温度は2000度前後まで達し、そのままでは扱い切れません。

そこで、大量の水を循環させることで、現実的な数百度にまで下げて使っています。

ですから、実はかなりのエネルギーが、まだ有効利用できていません。

今後の課題でしょう。

 

原子力機関はこれだけのパワーを持っているので、石油内燃機関に比べると、非常に小さい燃料で、大きな力を出せます。

しかも、一度燃料を装填すると、数ヶ月単位で、燃料の補充が必要ありません。

 

そういった利点から、小型の原子力機関が航空母艦(空母)にも使われています。

空母は、大きい物だと5000人の乗員と100機弱の戦闘機を積んで、何ヶ月も寄港せずに行動するため、燃料が少なくて済むというのは、かなりのメリットとなります。

また、エンジンとして動かすときに空気(酸素)が不要であるという点から、一部の潜水艦にも原子力エンジンが使われています。

同じ理由で、宇宙空間でも使われることがあります。

 

原子力は、まだ多くの可能性があるシステムであることを、一応述べておきます。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義