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あすなろ220 擬態-3 ベーツ擬態ミューラー擬態

2020年4月11日投稿

 
 
 
2020.02号
 
今回もまた擬態の話です。すみません。
 


これまでのお話
その1→擬態-1 カモフラージュ
その2→擬態-2 特殊なカモフラージュ


 
前回は脱線しまくっていましたが、戻します。
擬態には大きく分けて「周囲に紛れる」と「別の動物に化ける」の2種類があるのですが、今回は後者の方です。
ハチのような配色のアブなんてのは、もしかしたら気づいてないかもしれませんが、多分日常的に見かけているはずです。
 


上:ハナアブ
下:ヒラタアブの一種


 

色は確かにハチのようですが、慣れればすぐに見分けられます。
特に違うのは顔です。
アブはハエと同じ仲間ですので、目の大きさや触覚の長さがハチとは大分違います。
 


上:ミツバチ
下:ハナアブ


 
こんなに似ている理由はもちろん、ハチに間違えてもらえれば捕食されにくくなるからです。
これによって、少なくとも両生類のカエルやトカゲ・ヤモリなどの爬虫類からの攻撃は、事前にかわすことができていると思います。
 
ただし、カマキリやクモには全く通じませんので、これで天敵がいなくなるってほど上手くいくわけではありません。
 
ハチのマネをしている昆虫はまだ他にもいっぱいあります。
それだけ、ハチの危険性は、動物界では共通認識となっているということでしょう。
 
ところで、ハチといっても種類はいくつもあります。
しかし、我々が危険だと認識するハチの色は、だいたい黄色(または橙赤色)と黒の縞模様という共通の色をしています。
このように、別の種類でも同じ色になることによって、例えばアシナガバチに刺されたことのあるカエルは、ミツバチにも手を出さなくなります。
このようなケースも、擬態と分類されています。
 
このようのように、カモフラージュ以外の擬態には、大きく分けて2種類あります。
 


ハチ以外が、ハチのマネをする
……「ベーツ(ベイツ)型擬態Batesian mimicry」
 
ハチ同士は、別の種類でも似たような模様になる
……「ミューラー(ミュラー)型擬態Müllerian mimicry」


 
テントウムシも、ミューラー擬態と言えます。
どの種類も共通して黄色・赤・黒系統のまだら模様をしていて、
「食べると苦い」
という警告を発しています。
 
一方で、ベーツ擬態――――つまり「危険生物にマネする無害な生物」の、ハチ以外の例としては、
 
・毒のあるチョウに似る無毒のチョウやガ
・有毒のウミヘビに似た無毒のヘビ
・アリに似たクモやバッタ
 
などという例がよく知られています。
 
「毒のあるチョウ」ったって、そんなのがいるのかと思われるかもしれませんが、います。
普通に塾の近辺でもいます。
例えば、ジャコウアゲハやアサギマダラがそうです。

 


アサギマダラ

 
ジャコウアゲハ(オス)


 
ただし毒とは言っても、ドクガのように、手で触れたらかぶれる、というものではありません。
そういう毒ではなくて、このチョウを食べたときの話です。
どうやらこのチョウは、鳥にとっては食べると「まずい」らしいのです。
辛いのか苦いのかはわかりませんが、なにか特徴的な味なのでしょう。
これらのチョウは、幼虫の時に毒のある食草を食べることで、体内に毒を蓄積しています。
 
……ですから、これと似ていれば鳥に食べられなくなるというわけです。
 
そんないきさつから、ジャコウアゲハとそっくりになったガがいます。
アゲハモドキというガです。
 


ジャコウアゲハ(メス)

 
アゲハモドキ


 
アゲハモドキの大きさは、ジャコウアゲハの前翅長42-60mmに対して、30-37mmしかありません。
ジャコウアゲハを見慣れていると、ぱっと見は、かわいいミニチュアみたいな感じのガです。
我々から見れば違和感はありますが、鳥でしたら十分だませると思います。
 
さて。
この手のネタはきりが無いので、このあたりでもういい加減に、二ヶ月ほど前に書いた、一番最初の話に戻ろうと思います。
 
元々は、こんな話題でした。
 


「人間に擬態して人間社会に生きる異生物」という、まあ最近ではすっかりありがちになってしまった設定の話を読んでいて、そういえば、そういう擬態って実際にもあるのかなあ、なんて思ったわけです。


 
この擬態は、先述した中ではベーツ擬態にあたると思われます。
ハチそっくりに化けるハナアブみたいなヤツですね。
 
ただしベーツ擬態は本来、被擬態種(ハチなど)の危険性を誇示して、第三者からの攻撃を避けるのが目的です。
被擬態種の社会に溶け込むのが目的ではありません。
例えば先に挙げたハナアブは、どれだけミツバチにそっくりになったとしても、ミツバチの集団に紛れてミツバチの巣で生活する、というには、少々無理があります。
 
アリにそっくりのクモもそうです。
 


アリグモ(メス)


 
アリグモは、他のクモ同様に虫を捕って食べていますが、基本的にアリは食べません。
また、アリに紛れてアリの巣に入ったりもしません。
むしろ、アリが近づいてきたら逃げます。
 


実は、アリという昆虫は、自然界では一般的に厄介者・嫌われ者扱いされることが多いのです。
ですから、他にもアリに化けている虫はいます。


 
一方、時々アリを捕食することで知られているアオオビハエトリというクモは、サイズはアリと同じくらいですが、特にアリに似ているわけではありません。
 


アオオビハエトリ


 
やはり、その社会に溶け込む目的で、そこの生き物に擬態するというのは、普通はほぼあり得ないと思います。
人間そっくりのロボットや人形も、人間から見れば、
「なんとなく違う」
「雰囲気が違う」
「人間っぽくない」
などなどと、同種からはすぐにわかっちゃうんですよね。
 
ただ、別の動物の社会に入り込んで、その社会を構成する動物を捕食するという例が、無いというわけではありません。
(寄生は除く)
見た目をその種類そっくりに似せる、ということをしていないだけです。
 
アリで言えば、アリスアブというアブや、ゴマシジミというチョウの幼虫がそれです。
 


上:アリスアブ幼虫(丸い物体)
下:ゴマシジミ幼虫


 
アリスアブの幼虫は、卵からかえるとアリの巣の中に入っていきます。
見た目はとても昆虫には見えないような半球形をしていて、アリにはなぜか攻撃されません。
(もしかしたらアリの攻撃が効かなくて、もう諦められているのかもしれません)
 
巣の中では、おとなしくアリの食べかすを食べていることもあるようですが、時にはアリの幼虫を捕まえて、体液を吸っています。
その時は、この丸い体でアリの幼虫を覆い隠して、こっそりと捕食します。
 
一方ゴマシジミは、最初は巣の外で暮らしているのですが、二令幼虫からはアリによって巣の中に運び込まれて、アリの幼虫などを食べて育ちます。
こちらは、アブラムシのように甘い汁が出せるので、アリはそれにだまされてしまっているわけですね。
(他にも要因があるとされていますが、はっきりとはわかっていないので省略します)
 
てなわけで、結論です。
 
何らかの異生物が、
『人間社会に紛れ込んで人間を食べたいなー』
と思ったら、どんな方法がいい?
 
・方法その1:『アリに無視されるアリスアブのように、目立たない姿になる』
・方法その2:『ゴマシジミのように、愛されるための工夫をする』
 
……とまあ、このあたりが、現実的な方法でしょうね。
人間そっくりに「擬態」して入り込もうってのは、やっぱり無理があると思います。
 
しかしまた別に、こんなのもあります。
別種のアリが巣に紛れ込んで、その巣を乗っ取る、というケースです。
 
例えば、トゲアリというアリがいます。
普通のアリの場合、若い女王アリが最初にすることは、巣を作ることです。
しかしトゲアリの場合は、まず最初にそこいらのムネアカオオアリをとっ捕まえて、そのニオイを自分に移すことから始めます。
次に、ムネアカオオアリの巣に侵入していきます。
うまく女王アリのいるところまでたどり着いたら、そこの女王を殺して、自分が成り代わってしまうのです。
その後は、トゲアリの卵を産み続けていけば、そこは次第にトゲアリの巣に入れ替わってしまう、というわけです。
 
ただしこの方法は、成功率が非常に低いみたいですね。
ハイリスク・ハイリターンの典型でしょう。
 
実を言うと、アリや、その巣に住み着く生き物の習性は実に様々なものがあって、まだまだネタは尽きないのです。
(アリの巣に住む虫には、好蟻性昆虫という名前までついています)
この世界はホント面白いので、そのうちまた取り上げるかもしれません。
 
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義