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2012.10号
涼しくなってきました。
冷蔵庫の牛乳が一日1リットルでは足りない季節もそろそろ終わりですが、いかがお過ごしでしょうか。
ウチの子供達は、みんな牛乳好きです。
のどが渇いた時には水か牛乳です。
私も子供の頃は同じでした。
小学生の頃だったか、夏休みに弟と二人でいたとき、数時間で牛乳1リットルを開けたりしていました。
ただ、私の父親は、腸に牛乳耐性が無かったので、飲み過ぎはいかんいかんと言っていましたが。
私の友達にも、やはり腸が牛乳に弱い奴がいました。
が、高校生の頃に登場した「アカディ」という牛乳が腹をこわさないということで、毎日それを必ず買って飲んでいました。
牛乳が飲めない……というか、牛乳を飲むとお腹をこわしてしまう人は、牛乳に含まれる乳糖が分解できないのが原因です。
乳糖をうまく分解できない症状を乳糖不耐症といいます。
乳糖は、ラクターゼという消化酵素によって分解されますので、乳糖不耐症の人は、ラクターゼが十分に働いていないということになります。
しかし、だからといって病気というわけではありません。
乳児は、母乳を飲んで育ちます。
その頃は、先天的な異常が無い限り、腸内ではラクターゼがたくさん分泌されていて、乳糖をどんどん分解しています。
しかし、いわゆる乳離れ後は、ラクターゼをそれほど必要としなくなるために、分泌量が減少します。
その結果、大量に乳を飲むことに耐えられなくなり、乳糖不耐症を起こす、というわけです。
つまり、オトナの哺乳類なら、牛乳を飲み過ぎたらお腹をこわすのは、ある意味当たり前のことだとも言えます。
しかし、日常的に牛乳を飲み続けている場合は、ラクターゼの分泌量は、それほど減少しません。
言ってみれば、体が牛乳に対応しているわけです。
そこで、子供の頃から牛乳を日常的に摂取している人は、成人しても牛乳を普通に飲めるのです。
実は、乳糖不耐症の人でも、大抵は牛乳に「適応」することができます。
毎日少しずつでも牛乳を飲み続ければ、そのうちにラクターゼの分泌量が上がってきて、普通に飲めるようになってしまうのだそうです。
もちろん、先天的にラクターゼが出ない人はどうしようもないですが、人間ってすごいですね。
という話をしたところで、怪しい科学を紹介しましょうか。
いつの時代も、アレが悪いコレが危ないと、ありもしない危機をあおり立てる輩が尽きないわけですが、牛乳に対しても毒だの危ないだの主張する人がいます。
私は知らなかったのですが、10年くらい前に、そういう内容の本が出版されたようですね。
ラクターゼ不足の件に関しても、
「離乳期を過ぎて乳を飲む動物は人間だけであり、異常」
「牛乳は、仔牛が育つための成分しか入ってないので、人間には合わない」
「昔から飲んでいた西洋人はともかく、明治以降(または戦後)飲み始めたばかりの日本人は牛乳を飲むようにできていない」
などと、えーと、この人達は何を言っているんでしょうね。
酒を飲むのは人間だけですが、こっちはどうなんでしょうか。
仔牛のための成分だからというのなら、卵はひよこのための成分ですし、コメはイネが育つための成分なのですが。
また、日本書紀には神武天皇が将兵に『牛酒』(ししさけ)を賜るという話があります。
この牛酒は牛乳のことであり、ここから日本でも弥生時代から牛乳が飲まれていたと考えられています。
つまり、戦後どころか2000年の歴史があるわけなのですが。
とはいっても実をいうと、確かに西洋人の方が牛乳を飲むに適した体質を持っています。
つまり、成人してもラクターゼを普通に出せる人の割合が、他の人種よりも高いのです。
しかし、だからといって、西洋人がみんな日常的に牛乳を飲み続けていたわけではありません。
ヤギやヒツジが家畜となったのは紀元前8000年、ウシは紀元前6000年とも言われていますので、確かにかなり長い歴史があります。
ところが西洋諸国でも、本当につい最近まで、乳はバター、チーズなどに使われるのがほとんどで、飲用とされるのはごく一部でした。
理由は簡単です。
冷蔵庫がないと、すぐに腐るからです。
今のような殺菌技術が無かった頃は、さらに足が早かったと思われますので、搾乳された牛乳はどんどん加工に回されていたことでしょう。
ところで、しぼった牛乳は、そのまま放置しておくと、トロリとした脂肪分が浮いてきます。
これが、本来の「クリーム」です。
そしてこれを攪拌すると、「バター」ができます。
バターを採ったあとの残り汁は「乳清」と呼ばれています。
ホエイとかホエーとか表記されることもあります。
ホエイは、昔は全部捨てられていたのですが、豚に与えると良質の肉になるということで飼料として使われたり、これを乾燥させたホエイパウダーはいろいろな食品の材料として利用されています。
牛乳批判の話に戻ります。
すごいことが書かれていますので、引用します。
牛乳を飲むと血液中のカルシウムが急激に上昇します。
人体は体内のバランスを保つために余剰のカルシウムを体外に排出しようとします。
この際、カルシウムだけでなくその他様々な栄養素も一緒に排出され、これが「骨粗しょう症の原因」となるのです。
うわぁ……頭がくらくらします。
この理屈でいうと、蛋白質をとればアミノ酸を排出して、炭水化物を取れば糖類を排出するというスーパー生物ができあがります。
どうやって生きていくのでしょうね。
カルシウムイオンは、血液にとって特に重要なので、常に厳密に濃度が保たれています。
そして、少しでも濃度が下がったら骨から供給して、逆に濃度が上がったら骨にため込みます。
安易に排出なんてするわけないじゃないですか。
もったいない。
その他さまざまな栄養素が排出されるというのなら、その人は腎臓の病気です。
早く治療した方がいいですね。
「現代酪農の乳牛は、妊娠しながら搾乳されるので大量の女性ホルモンが含まれている。
それを子供に飲ませるのか」
なんて記事も見つけました。
でも女性ホルモンって、経口摂取しても消化、分解しちゃうんですよね。
それともこの人は、牛乳を血管注射しているんでしょうか。
要するに、こういうおかしな人に騙されちゃダメですよ、ということです。
血液型性格診断とか右脳左脳論とか胎教とか酸素水とか、この手のネタは尽きませんねほんと。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義