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あすなろ207 船首

2019年1月31日投稿

 

 

 

2019.01号

つい先日、マンガを読んでいて初めて知ったのですが、城門を破壊する時に突くでかい丸太のことって、ラム(battering ram)って言うんですね。


上:ラムの使い方

下:屋根と車輪の付いたラム(屋根は矢よけ)


ラム(ram)といえば、昔の軍船についていた「衝角」も同様に突いて破壊する兵器ですが、これの語源がこんな所にあったとは知りませんでした。

ちょっと感激しました。

と書いても、そんな言葉知らないと言う方がほとんどかと思いますので、ご紹介します。

古代ギリシャエジプト時代から第二次世界大戦に至るまで、海戦では相手の船を沈めてしまえば勝ちです。

そのために有効な戦法の一つが、舳先を相手の腹に当てて破壊することでした。

その効果を高めるために、船の喫水線より下側を前方に突き出した形状にすることがありました。

これがラムです。

ラム戦は、元はといえば紀元前の戦法です。

しかし16世紀ごろまでは、大砲の威力と精度が低かったために、ずっと主力の戦法として使われ続けていました。

※ 日本の伝統的な船は構造上、体当たりができるような強度がなかったために、ラムは発達しませんでした。


上:ラムを備えた軍船(古代ギリシャ)

下:戦艦 三笠(日露戦争)


しかし日露戦争以降の海戦では、敵艦との距離が縮まる前に砲撃戦で決着がつくようになったので、ラムは廃れていきます。

その結果、単純な形状の船首「クリッパー・バウ」が主流になります。

クリッパーとは大航海時代の大型帆船で、ティークリッパーとして活躍したカティサークが有名です。

まあ要するに、横から見ると直線的なシルエットの船首となったわけです。

その傾斜がきついものはアトランティック・バウなんて呼ばれることもあるようですが、明確な境界はありません。


上:クリッパー・バウ(カティサーク)

下:アトランティック・バウ(ドイツ戦艦 グナイセナウ)


しかし当時の日本の技術者は、新しい船首を開発して、軍艦に採用するようになります。

それがスプーン・バウ(またはカッター・バウ)です。

横から見ると、クリッパー・バウよりも丸く湾曲した形をしています。


スプーン・バウの例

上:駆逐艦 若竹

下:軽巡洋艦 長良


スプーン・バウが採用された理由は、機雷避けだとか軽量化だとか高速化だとか諸説あって、どうもよくわかりませんでした。

しかし当時の海軍はこの形状が気に入ったようで、十年ほどは作られ続けています。

しかしその一方で、問題点も見つかりました。

この形状では波を甲板までもろに被りやすくなるのです。

ひどいときには、巻き上げた水煙で砲撃ができなくなりました。


波を大きく巻き上げる(戦艦 陸奥)


そこで今度は、上部の張り出し(フレア)を大きく作って、波を上まで上げないような形状へ変更していきます。

それがダブルカーブド・バウです。

下の写真で、水面から甲板に向かって、大きく開くようにカーブしている様子がわかるでしょうか。

こうして日本の軍艦の船首は、特有の複雑な形となっていったのです。

先にあげたグナイセナウは同じ時代の戦艦です。

形状を比べてみてください。


上:重巡洋艦 足柄

下:戦艦 大和


ところで、ここにあげた戦艦大和は、喫水線の下が前方に丸く出っ張っています。

この部分は、バルバス・バウと呼ばれています。

バルバス・バウを本格的に採用したのは、日本海軍が始まりです。

原案を考案したのは日本人ではありませんが、その形状と効果の関係を算出したのは日本の研究者です。

現在ではその改良型が、貨物船・大型漁船・大型客船などに数多く採用されています。


新旧のバルバス・バウ

上:戦艦 大和(大戦中)

下:大型客船 飛鳥II(現在)


バルバス・バウは、船首によって発生する波を押さえる働きをしています。

バルバス・バウがない船首では、下図の4のような波がおこります。

一方で、棒だけを水中に入れて進めると、3のような波がおこります。

この波のおこり方をうまく調整して、3の波と4の波が打ち消し合うようにすれば、船にかかる波の抵抗が減って、速度も燃費も上がるというわけです。


バルバス・バウの働き

3:バルバス・バウが作る波

4:バルバス・バウがない場合に発生する波

5:合成された波

※反対の波を発生させることで元の波を打ち消すという手法は、ノイズキャンセリングヘッドホンや、レシプロエンジンの一次振動減少にも使われている。


今回は、ちょっとオタクな話でした。

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義