【雑記帳(あすなろ)】

HOME雑記帳(あすなろ)あすなろ234 逆行する惑星

あすなろ234 逆行する惑星

2021年12月9日投稿

 
 
 
2021.05号
 
 
※ 前回分のNo.233は欠番とします。
 
地学って、
私は面白いと思うし好きなんですけど、
高校では、ほとんどの生徒が履修しないんですよね。
しかも、習うとしたら文系で、
理科でありながら理系では習えないという
奇妙な科目です。
 
でも地学って、
本格的に始めると物理の世界に入ってしまうので、
大学で地学関係をやりたかったら
まず物理をやっておくのがいいとは思います。
 
が、どうもすっきりしません。
 
私は星と化石が好きでしたので、
高校の頃は、地質部と天文気象部に入っていました。
地質部では副部長をやりましたし、
天文気象部では部長をやりましたので、
両方とも、後輩に教えられる程度には、
まあまあ色々やって色々覚えました。
(さらに生物部の部長もやって、

化学部にはよく遊びに行っていました。

 
そんな人ですので、
地学ネタはそこそこ持っているのですが、
その中でも私が
「皆さん、案外知らない?」
と思っている話をします。
 
惑星の動きの話です。
 



 
惑星は、
「惑う星」
と書きます。
 
 
 
……惑う?
 
 
 
星の種類には、他に恒星と衛星があります。
 
恒星の恒は、「常に」という意味です。
常に暖かい動物は、恒温動物と言いますよね。
同じように恒星は、
・常に光っていて、
・常に同じ配置で、
空を回っています。
 
衛星の衛は、衛兵の衛で、
守るという意味です。
自衛隊の衛でもありますよね。
惑星をまるで護衛しているように回っているので、
そう呼ばれています。
 
では惑星は、
何を戸惑っているのでしょう。
 
 
 
惑星には、別名に遊星という言葉もあります。
この遊は
「あちこち移動して回る」
という意味です。
遊説の遊ですね。
 
一方、惑星の惑という漢字は
・考えが定まらないこと
が元々の意味です。
 
ただし惑星という名は、
元々はオランダ語の「迷う星dwaalster」を、
江戸時代の蘭学者が訳したときに、
「迷」の代わりに「惑」を使ったのが
始まりだとされています。
後に出た本には、惑星のことは
「天の掟を惑わしむ」
とも書かれています。
 
(ネット上には、

英語のplanetを翻訳したと書いてあることもありますが、
残念ながらハズレです)

 
これは、惑星が恒星と違って、
その位置を変える星だからです。
 
……と言っても、今からすれば
何言ってんだオメエは、というレベルの話ですが、
これが昔の博物学者を、悩みに悩ませました。
なんでこうやって、勝手に動き回る星があるのか。
 
そこで、昔の人はまず、こう考えました。
 

秩序正しく並んでいる「恒星」よりも、
惑星・太陽・月は、手前にあって、
それぞれ独立して地球の周囲を回っている

 



 
しかしそれだけでは、
「科学的」には説明できないことがありました。
 
惑星の「逆行」という現象です。
 
月や太陽は、天球上のいつも定まったコース(黄道)を、
一定の速度で移動していきます。
しかし惑星は、時には天球上で止まり、
さらには逆に向かって移動を始めることがあります。
これが逆行です。
 


・2011-12年の火星の逆行


 
そこで、プトレマイオスという科学者が、
逆行を説明するために考え出した学説がこちらです。
 




 
このように、それぞれの惑星は、
・その場で円を描きながら地球の周囲を周回している
と考えたのです。
 
これによってとりあえず、
逆行は説明できるようになりました。
 



 
しかしこの動きはまだ、観察結果と少々異なります。
そこで、その整合性を取るために、
・惑星の公転する中心は、地球とは少しずれた位置にある
という考え方が採用されています。
 
ところが、この理論は複雑すぎて、
当時の数学では、その正確な軌道が、
計算不能な状態になってしまっていたようです。
 




 
もちろん、今の地動説では、
惑星の逆行はちゃんと説明できます。
 
逆行は、
・内側の惑星が、外側の惑星を「追い抜く」
ことから起こります。
 
太陽に近い惑星(内側の惑星)は、
それより遠い惑星よりも、
公転する時間は必ず短くなります。
 
これは、人工衛星でも同じです。
人工衛星は、地球から近いとすぐに一周しますが、
遠くなると、一周に時間がかかるようになります。
(この話もなかなか面白いので、

今度、機会……ヒマがあったら書いてみます)

 
内側の惑星が外側の惑星を追い抜くというのは、
そんな理由からなのですが、
このとき、次の図のようなことが起こります。
 



 

Tが地球、Pが火星とします。
 
最初、T1から見たP1は、天球上のA1の位置に見えます。
Aは、天球という背景に映ったPの位置だと思ってください。
 
T1がT2へと移動すると同時に、P1はP2へと移動します。
ここで、T2からP2を見ると、P2はA2という前方へ、
進んで見えています。
 
ところが、Tが進むにつれて、TはPを追い抜いて行きますので、
Tは徐々に、「後ろ」へと下がって見えます。
これを背景のAに照らし合わせてみると、
Pは順にA2・A3・A4・A5へと動くように見えます。
つまり、一時的には逆に進んでいくように見えるわけです。

 
この現象は、
地球よりも外側にある外惑星で起こりやすいのですが、
地球よりも内側の内惑星でも起こります。
 
次の2枚のうち、右側の図が、内惑星の逆行です。
詳細は省きますが、こういう位置の時に逆行が起こります。
 



 
しかし外惑星の場合と違って、
内惑星はそもそも地球から見て、
太陽と同じ方向にあるわけですから、
その様子は非常に観察しにくくなります。
あまり見られないのはそのためです。
 
 
 
さて、そんなわけで。
プトレマイオスくんが一生懸命考えたアイデアは、
地動説によってポシャってしまったわけでした。
 
……が、
実はまだ、今も生きているのです。
 
 
 
先に、惑星のことを遊星とも呼ぶなんて話を出しましたが、
まさにその「遊星歯車」という機構があります。
英語でいうと、プラネタリ・ギアplanetary gearです。
もちろん、プラネタリとは「惑星の」という意味です。
 
※ 私は遊星ギアと呼んでいますので、以下遊星ギアと書きます。
 
遊星ギアは、中に組み込まれた歯車が、
かつてプトレマイオスが考えた惑星のような動きをさせることで、
中心の軸との同軸上に、逆回転を発生させることができます。
 



 
中心軸は、ご覧の通り太陽sun gearという名前となっていますが、
この動きは、地球の周りを公転する惑星そのものですよね。
 
プトレマイオスの描いた宇宙は、1900年の時を超えて、
まだここに生きているんです。
 
 
 
ところで。
 
外惑星の逆行は、
大抵、2年に1回以上は起こります。
2021年は、火星の逆行はありませんでしたが、
木星は7月から10月が逆行、
土星は6月から10月が逆行でした。
遠い惑星は動きがわかりにくいので、
観測しやすいのは火星ですね。
 
近年は、ネタ切れのマスコミが
火星大接近などと騒いでくれますが、
その時はまさに、最速で逆行している最中です。
他の星と比べてどこにあるか、
しばらく観測すると、
逆行が「見えてくる」と思います。
 
 
 
塾には天文年鑑が置いてありますので、
日程の詳細は、すぐに調べられますよ。
 
 
 
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義