2018年3月

あすなろ155 石鹸(過去記事)

あすなろ

 

 

 

2014.09号

 

牛乳石鹸という名前をご存じでしょうか。

 

その名も牛乳石鹸共進社という会社の作っている石鹸でして、明治42年から続く商品ブランド「牛乳石鹸」を社名にしています。

 

商品名と会社名が同じという例は、昭和初期のころまでは数多くありました。

しかし高度成長期からバブルにかけて、大手各社では経営を多角化したために、漢字の社名を片仮名のブランド名に変更したり、アルファベットを社名に入れることが流行しました。

その結果、その後は一商品や一業界のみを表す社名が減っています。

 

例えば、鈴木自動車は株式会社スズキという名前になったことによって、不動産をしたり物置を作ったりしても「自動車会社なのに物置かよ」というつっこみを入れられないようにしています。

出版一本から始まった福武書店は、教育関連がすっかり拡大したので、ベネッセという「かっちょええ名前」になりました。

かつての石川島播磨重工は、今やアルファベット三文字のIHIが正式名称となっています。

 

もちろん、昔ながらの社名を守っている会社もあります。

味の素株式会社は、商品名=社名の代表例ですね。

他にも、浅田飴とか、仁丹とか、ブルドッソース、セメダインなどが、明治や大正から続く商品名を、現在もそのまま社名としています。

今では作っていない商品名(シャープペンシル)を社名とし続けているシャープという会社もあります。

 

それはともかく、私は入浴時には、そんな牛乳石鹸を愛用しております。

もちろん、わが家にも液体のボディーソープはあります。

それでもあえて石鹸を使っている理由は、泡立ちが違うから、です。

 

あ、いやちょっと訂正。

牛乳石鹸が特に泡立ちがいい、というわけではなくて、石鹸が一般的に、という意味です。

風呂で使う限りでは、泡立ちや使用後のすっきり感は、どうも固形石鹸の方が液体石鹸に勝る気がします。

 

ただ、手洗いのような少量使用時には、違いは気になりません。

むしろ、使い勝手の面から、液体石鹸の方がいいと思っています。

 

てなことを考えていくと、

「じゃあ固形石鹸を溶かしてボトルに入れておけば最強じゃん」

ということも思いつくかもしれませんが、そうなるとは限らないんですよね。

実はほんのちょっとだけ、成分が違うのです。

 


自由研究のネタってのは、本当はこうやって探すものですよー。

来年あたり、誰か固形石鹸を溶かしてボトルに入れて、使いこごちを比べるなんて実験はいかが?

または、液体石鹸を乾かしたら固形石鹸になるかどうか、なんてのとか。


 

その違いは自分で調べてもらうとして、その前に、まずは石鹸とはどういうものか、石鹸を使うとなぜ手がきれいになるのか、そもそもなぜ手の汚れは水だけでは落ちないのか、という話をします。

 

例えば、外で草むしりをして、手に土が付きます。

そのまま水洗いをするだけでも、時間をかけてがんばれば汚れは落ちますが、石鹸を使った方が早く落ちます。

なんででしょう? という話。

 

皮膚には毛穴があって、そこから毛が生えています。

穴ですから、放置しておくと病原菌の入り口となってしまいますので、それを防ぐために中から皮脂という油を出して保護しています。

この油は、毛穴の保護の他に毛髪表面の保護や、皮膚そのものの保護の役割もあります。

 

というわけで、人間の皮膚は、通常は油分で覆われています。

ここに例えば土が付くと、皮膚の上は油に溶けた土がくっついているという状態になります。

これを落とすためには、油を流し落とさなければいけません。

しかし、水に油は溶けません。

これが、水だけでは汚れが落ちにくい理由です。

 

一方、石鹸には、「油と水を混ぜる」作用があります。

 

石鹸の分子は細長い形をしているのですが、一方が「水に溶ける部分(親水基)」で、もう一方が「油に溶ける部分(疎水基)」となっているために、水と油を「つなぐ」ことができます。

その性質から、石鹸分子は油を取り囲んで、油を水中に「溶かし出す」ことができるのです。

 

なお、石鹸分子が油を囲んだ状態をミセルといいます。

 

 

石鹸のような性質を持った物質を、「界面活性剤」といいます。

なお、肝臓で作られる胆汁も同じ性質を持っていて、消化管内の脂肪を他の物質と混ぜる働きをしています。

 

このような石鹸分子は、脂肪酸(脂肪を消化したときにできるアレ)にちょっと手を加える(鹼化)だけでできあがります。

実は、石鹸は油から作っているのです。

 

さて。

今時は手洗い石鹸といえば、公衆の場所でも大抵が液体石鹸ですが、昔はよく固形の石鹸がそのまま置いてあったりしたものでした。

(「シャボネット」は例外として)

 

そして大抵、長い間放置された石鹸は、表面には同じ方向に何本ものヒビが走っていて、しかもカチカチに固くなっていて、泡が立たないんですよねこれがまた。

でもこの現象にも、ちゃんと理由がありました。

 

まず、同じ方向にヒビが入るのは、工程上の問題でした。

機械練りという方法で石鹸を製造するとき、棒状に押し出すために、結晶の向きが揃ってしまうからだそうです。

枠練りという方法で作られた石鹸では、これは起こらないとのことです。

 

また、石鹸は様々な温度に対応できるように、低温から水に溶けやすい柔らかい成分と、高温で洗浄力を発揮する硬い成分が混ぜてあるのだそうです。

ところが、湿度の多い所に放置しておくと、水に溶けやすい成分だけが流れ出てしまって、硬い成分だけ残った石鹸になってしまうのだそうです。

 

ということは、硬くなってしまった石鹸は、お湯で使えばよかったのですね。

30年前の自分に教えてあげたいです。

 

また当時は、屋外の水道に、ネットに入れた石鹸をかけておくと、よく無くなったものです。

昔の学校の先生とかは、誰が盗っていくのか結構悩んだらしいのですが、この犯人は、今ではカラスだとわかっています。

カラスが石鹸を食っちゃうんですね。

先に述べたとおり、石鹸というものは脂肪をちょっといじっただけのものですから。

 

最後は、最近の若者には縁の無い話でした。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義

あすなろ136 ポンチョ(過去記事)

あすなろ

 

 

 

2013.02号

 

娘の着る服を、ほとんど父親が選んでいるという家庭があるらしいですが、そんな父親がこんな所にいます。

どうもこんにちは。

 

だって朝、服を選んで着替えさせているのは俺だし。

 

私の趣味に合わない服を貰うこともあるのですが、朝、私が出さなければ、結局ほとんど着ないことになっちゃうわけですから。

 

そんなわけでここ3~4年は、女性のファッションと、その流行にずっと興味を持っています。

キモいよねホント。

俺もそう思う。

 

そんなキモおじさんによると、今年はポンチョ(あれってケープじゃないからね)を着ている女性が特に多いようです。

何年か前から少しずつ流行していましたが、この冬は、これまでになく見かけるようになりました。

流行のピークが近づいた感があります。

 

ご存じの方も多いかと思いますが、ポンチョは、中南米の民族衣装に由来します。

中南米といえば、メキシコとか、ペルーとか、アンデスとか、メキシカンハットとかウクレレとか、チャランゴとかケーナとかフォルクローレとかコンドルは飛んでいくとか、あのあたりを想像していただければ、と思います。

 

 

 

形状についての説明は省きますが、簡単に言うと貫頭衣(かんとうい)の一種です。

貫頭衣とは、布に穴を空けて、頭から被る服のことです。

日本でも、弥生時代は貫頭衣を着ていたとされています。

 

 

ポンチョの場合は、かつては革製だったそうです。

それが後に毛織物となって、現在に至ります。

「本物のポンチョ」の生地の大きさは3.6m×2.4mもあるらしいです。

最近よく見るショールサイズのものとは違って、相当大きいようですね。

地面に座り込むと、足を覆うことができるのだとか。

 

ただ、ポンチョといえば、私にとってのイメージは、民族衣装以外にもあと2つあります。

 

1つはレインポンチョ、もう1つは迷彩ポンチョです。

 

名前からおわかりの通り、レインポンチョは雨具、迷彩ポンチョは軍用品なのですが、この2つには深い関係があります。

 

アメリカ南北戦争の時、軍から兵隊にポンチョが支給されました。

これは、ゴム引きの防水布でできていて、雨具兼「寝るときのシート」として使われたそうです。

 

その後、アメリカ軍に採用されたポンチョは、米比戦争(1900年頃、アメリカがフィリピンを侵略、制圧した戦争)のころには改良されてハイネックが付きます。

第一次世界大戦の時は、背嚢を雨から守ったり、広げて屋根として使われたということです。

(この辺り、元資料が英文なので、もしかしたら少しズレた解釈をしているかもしれません)

 

さらに第二次世界大戦(WW2)の頃から、迷彩模様のものが採用されています。

そしてWW2後には材質がナイロンとなり、現在の米軍でも使われています。

雨具以外としても、野外における隠れ家(shelter)となります。

また資料によると、ハンティング、キャンプ、救助作業にも使われています、とあります。

 

 

また別の資料によれば、軍用ポンチョには内張がボタンでとめてあって、外せば毛布としても使えるのだそうです。

上の図以上に本格的なテントも作れるようになっているとのことです。

 

テントになるポンチョは、WW2のドイツ軍で初めて使われました。

4人で4枚合わせるとテントになるように、ポンチョを三角形にしてあります。

この形状のポンチョは、今でもドイツ軍に採用されています。

 

 

また、このポンチョは「お手軽迷彩服」としても愛用されていたようです。

 

当時のドイツ陸軍の軍服は、緑一色のものでした。

大戦後期には迷彩服の生産も始まるのですが、生産が間に合わなかったために、多くの部隊には行き届きませんでした。

ですから、上からポンチョを被ることで間に合わせていたようです。

 

そういうわけで、ドイツ兵がポンチョを来た写真は、これまでにもさんざん見ていました。

しかし、アメリカ兵の写真で、ポンチョ姿なんて見たことがありません。

ですから、今回調べるまで、WW2のアメリカ軍にポンチョがあったなんて知りませんでした。

そこで、ネットをさんざんひっくり返してみたら、その理由っぽい写真が見つかりました。

WW2アメリカ海兵隊の写真です。

 

 

わかりにくいですが、背中に背負う装備を包んでいる迷彩柄の布がポンチョです。

確かにこんな写真ならば何度も見ましたが、まさかあれがポンチョだとは思いませんでした。

 

そんなわけで、軍用ポンチョ最高という結論が出てしまいましたが、残念ながら、おしゃれに着こなすのは困難に思われます。

 

でも「この上着、テントにも毛布にもなるんだぜ」とか言っちゃうと、小中学生男子は飛びついてくるだろうなあ。

ほぼ間違いなく。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義

あすなろ107 果物(過去記事)

あすなろ

 

 

 

2010.09号

 

私は筑波大の生物にいたのですが、そのころの恩師(元教授)が現在、学園都市で「サイエンス・キッズ」というものを主催しています。

小学生を対象に理科などの教育活動(といったら少し違うかな?)を行っているのですが、ウチの子も、今年度からこれに参加しています。

 

そしてつい先日、それのキャンプがありました。

その際、「レクリエーション」の時間に、即席の「講師」として、果物についてのウンチクを垂れてきました。

そのために一夜漬けで調べたおかげで、果物についてちょっと詳しくなりましたので、そんな話をしましょう。

 

まず、果物というものの定義から。

 

リンゴ、カキ、キウイ、マンゴー……と、スイカ、メロン、バナナ、イチゴ……。

今、果物を二つのグループに分けてみたのですが、どういう分け方かわかりますか?

 

二つに分けたうち、前者は紛れもない果物です。

しかし、後者は分類法によっては野菜とされるものです。

 

果物とは何か、を決めるとき、その線引きが難しい場合があります。

 

例えば、メロンはウリの仲間です。

普通のウリは野菜に、メロンは果物に分類したとしても、甘いウリであるマクワウリは、どっちに入れればいいのかかなり微妙な存在になってきます。

つまり、厳密な定義が非常に難しいのです。

実際、トマトは野菜か果物か、なんて話は、過去にアメリカで国を相手に裁判にまでなったくらいです。

 

そこで、法律など厳密さを求められる場合は、植物学的分類のうち、「樹木」は果物、「草本」は野菜、と分けることにしています。

それに従うと、一年から数年で枯れてしまう「草」にできる実は、全て野菜ということになりますので、スイカやイチゴは野菜、とも言えるのです。

 

果物は、全てが植物の「実」であることは間違いないのですが、その実のできかたにも、色々な種類があります。

 

例えば、カキの構造を見てみます。

カキには一番外側に薄い皮があり、その内側に厚い層があり、種子の周囲にもう一つ薄い皮があり、さらに中に種があります。

この三層構造を、外から外果皮、中果皮、内果皮と呼びます。

従って、カキの食べる部分は、中果皮ということになります。

(図参照)

 

 

同様に、スイカの場合は一番外の緑色の皮が外果皮ですが、その内部の白い部分が中果皮にあたります。

そして、赤い部分は内果皮であり、スイカは内果皮を食べていることになります。

 

メロンはスイカと同じウリの仲間ですが、こちらは中果皮を食べています。

メロンの場合、中心に種の入った「穴」が開いていますが、その穴の周囲が内果皮になります。

 

ミカンなどの柑橘の場合は、皮のうちの橙色の部分だけが外果皮です。

皮の内側についている、白いスポンジ状の部分は中果皮です。

その内側の、「実」の入った袋が内果皮です。

つまり、ミカンでは「果皮」は食べる部分ではないのです。

 

では、すっぱいあの部分は何かというと、種の周辺の毛が変化したものなのです。

メロンを切ると、種が糸状のもので芯につながっていますが、ああいう糸がふくらんだのが、ミカンの食べる部分となっているのです。

 

 

モモの場合は、カキ同様、中果皮を食べます。

外側の皮が外果皮、食べる部分が中果皮なのですが、内果皮は非常に硬い殻状になっています。

そして、その内側に種子があります。

モモを食べると、中にでっかい「種」が一つ入っているように見えるのですが、あれは実は種そのものではなく、内果皮なのです。

あの中にあるのが、本当の種です。

ウメも同じで、梅干しの「天神様」が種です。

 

モモのように、内部に種の入った殻を持つ植物は、ウメやスモモのような近縁種以外にも、マンゴー、プルーンなどがあります。

このような殻は、核果(かくか)と呼ばれています。

ブドウの種も、同じく核果です。

 

リンゴやナシは、さらに違う構造で成り立っています。

リンゴを切ると、中央の種の周囲だけ少し違う色で、少し酸っぱくて「芯」として捨てますよね。

でも、あそこがリンゴの「本当の実」なのです。

その周囲の、実際に食べる部分は、花床(かしょう)または花托(かたく)と呼ばれる、花の付け根の部分がふくらんだものです。

 

このような実は、中学校で習うような、「子房→果実」という流れとは違う部分が「果実」を覆っていますので、「本来の実ではない」ということで偽果と呼ばれています。

 

 

偽果の例は、他にもイチゴなどがあります。

イチゴの食べる部分も花床です。

イチゴの花は、花床から多数のめしべが出ています。

その一つ一つが実となり、肥大化した花床の表面につきます。

つまり、イチゴの表面にくっついている「種」が、本当の実なのです。

 

これまでは、一つの花からできる実の話でしたが、パイナップルの場合は、また違います。

一つの軸から多数の花が咲き、その実が全部つながってしまったのものが、あのパインとなります。

皮のでこぼこした部分、一つ一つが花のあとです。

パインの断面を見ると、表層付近に穴が開いていますが、あれが内果皮の内部、種のある部分です。

イチジクもそういう意味では似た構造なのですが、内と外がパインとは逆転しています。

 

 

果物に関しては、他にもまだネタはあるのですが、今回はこのへんで。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義