2018年9月
あすなろ202 大豆
2018.08号
何年か前から、糖質制限ダイエットという妙なものが流行しているようです。
これは元々は、「糖を取らなければやせる」てな理論で、アメリカの一部で流行していたのは知っていました。
そりゃあだって、アメリカ人って奴は普段から、砂糖でジャリジャリしているチョコレートを食っていたり、ビールジョッキの様な巨大な紙コップでコーラを飲んでいたり、頭が痛くなるほどの劇甘なケーキに練乳をかけて食ったりしているわけですから、糖分を取るのをやめるだけでかなりのカロリー制限になるでしょうよ。
それに白人は我々と違って、油を取り過ぎたら死んじゃう遺伝子が欠けていますので、元々肉だけ食ってても生きていける体なのです。
まあ勝手にしてろよ、何てことを当時は思ったのです。
そして、そんなこともすっかり忘れかけていた頃、日本でもそれをマネしている奴がいると聞いて、
「ああ? バカだろ。日本人がやったら最悪死ぬぞ」
なんて思っていたら、みるみる一般化していって、いつのまにか糖質という言葉が炭水化物全般を指すようになっていて、もう呆れているのです。
炭水化物の量を抑えても、脂肪を取ったら同じなんですよ。
一時的に体重は減るかもしれませんが、その内容に問題があるんですよ。
炭水化物が足りないと、その分のエネルギー源をどこかから用意しなければいけないのですが、運動していない人の場合は脂肪を使わずに、脂肪よりもっと簡単に分解できる、アミノ酸を持ってきて分解するんですよ。
つまり、筋肉を分解し始めるんですよ。
減るのは脂肪じゃなくて筋肉なんですよ。
そしてその時に働くホルモンが「糖質コルチコイド」でして、これが正しい「糖質」という言葉の使い方なんですよ。
体に必要なものは、炭水化物と蛋白質、それにビタミン、ミネラルです。
脂肪は別に摂取しなくても構わないものです。
ですから、摂取カロリーを抑えたかったら、単純に脂肪の摂取を抑えるべきであって、正解は「脂質制限」だと思っています。
ただ、これでは当たり前すぎて話題にはならないでしょうね。
ところが、一般的な蛋白質類は、大抵が脂肪とセットになっています。
肉を食えば、普通は勝手に油がついています。
それを防ぐために、油の抜けた蛋白質を用意しましょう。
1つにはカツオ節。
そしてもう1つは大豆製品です。
例えば豆腐は、低脂肪高蛋白な食材として、世界的にも有名です。
ただし、大豆に油脂が入っていないというわけではありません。
むしろ世界的には、主に油を採るために栽培されているものがほとんどで、世界の大豆は総量の85%が食用油の製造用なのだそうです。
そのまま食用となるのは、わずか4%弱なんだとか。
しかしその中で、日本だけは20%近くが食用とされています。
理由は……
まあだいたい想像できると思いますが、日本では大豆食品の種類が非常に多いからですね。
いや、多いどころか、大豆は日本料理の中心的存在です。
醤油、味噌(米味噌を除く)、豆腐、納豆、煮豆、油揚げから、きな粉、枝豆、湯葉、もやし、そして節分に「鬼は外」する煎り豆までもが大豆です。
これだけ文化的にも日本に根付いている大豆ですが、その起源となる産地は中国もしくは朝鮮半島と考えられていました。
いました。
過去形なのです。
確かに、今でもインターネットで調べると、例えばグリコのサイトには「弥生時代に日本に伝わった」「栽培が広まったのは鎌倉時代以降」と書いてあります。
しかしその後、縄文時代の土器に、栽培された豆の跡がついていたり、土器の中に豆を練り込んでいたりしていることが見つかり始めています。
そして2014年に書かれた(発表は2015年)とある論文によりますと、品種改良による豆の大型化は、縄文時代でかなり進んでいて、
「当該期の東アジア全体をみても,これほど大型化した種子は現在では日本列島のみに見られる現象である」
と記述されています。
これはつまり、大豆の日本起源説です。
もちろん、他の地域でも豆の栽培はあったでしょうが、現在の大豆につながる品種は、日本から東アジアに広まっていったのが正しい、と考えられるということです。
先に述べたとおり、日本文化と大豆は非常に密接に関わっています。
それだけ付き合ってきた歴史が長いということですので、大豆が日本起源という話も、非常に納得できるところでしょう。
以前にも少し書きましたが、日本の縄文時代は、「縄文文明」と呼んでもいいような、高レベルの技術や文化を持っていました。
大豆に関しても、品種改良の技術や、その利用法については、当時から数多くの人々によって研究されてきて、それが今の日本文明につながってきたのだろうと想像できます。
さてそうなると、「ダイズ」という呼称が気になってきます。
というのも、ダイ(大)もズ(豆)も、共に音読み、つまり漢語由来だからです。
古事記にも「大豆」は登場します。
しかし当時は、これをマメと読んだようです。
おそらくこれより後世に、他の豆と区別するためにダイズと音読みされるようになったのでしょう。
和歌の世界では「花=桜」であったのと同じようなものだと思います。
なお、この当時から小豆はアズキでした。
そんな大豆、今では農作物としては小麦に匹敵するくらいの量が、世界各地で交易されています。
先述したとおり、世界的には主に食用油の原料として生産されています。
現在、大豆の生産量が世界一なのはアメリカです。
次いでブラジルとなっています。
ブラジルは、かつてはそれほどの大豆生産国ではありませんでした。
しかし過去に、アメリカが大豆の輸出規制をかけた時に、日本がブラジルに働きかけたのがきっかけで大豆生産をするようになった、といういきさつがあります。
私の中学生時代の社会の教科書では、大豆は100%が輸入となっていました。
しかしその後、遺伝子組み換え大豆が登場した際に、大豆を食用としている日本では国産回帰のブームが起こったこともあって、現在の生産量はそこそこ回復しているようです。
農水省によりますと、平成27年現在では油用も含めた自給率は4%、食用限定だと25%となっているようです。
また国産大豆は、種子用を除くと100%が食用となっていて、そのうちの56%が豆腐になっているということです。
そうそう。
きな粉はそこいらのプロテインよりもずっと安い上、吸収率も高いそうです。
最近は、プロのスポーツ選手も、牛乳やヨーグルトと一緒に飲んでいるとのことです。
あと、大豆の英名soybeanのsoyは、日本の醤油を語源としています。
大豆とは、世界的には「醤油豆」なのです。
やっぱこれ、日本原産ってことにしちゃっても、別にいいんじゃないんでしょうかねえ。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義
あすなろ番外編 記号「ヶ」「ヵ」について
あるとき生徒から、「3ヶ月」「戦場ヶ原」の「ヶ」について、
これは何がどうなっているのかという質問がありました。
そこで、ちょっと調べてみまして、まとめた内容が以下です。
自分としても興味深い内容でしたので、公開してみます。
なお、こちらの記事は、質問者本人には渡しましたが、月謝袋では公開しておりません。
記号「ヶ」について
1.
元々チャイナでは、物を数える単位として
「箇」が用いられていた。
これは日本語の1個2個の「個」にあたる。
読み方は「カ」「コ」。
2.
漢の時代の頃から、「箇」の省略形として
「个」が用いられるようになった。
読み方・使い方は「箇」と同じ。
「个」は、漢和辞典にも掲載されているれっきとした漢字。
3.
「个」が日本に伝わったのち、
恐らく片仮名の「ケ」と形が似ているからという理由で、
「箇」「個」を使う場面で、
「个」の代わりに「ヶ」が用いられるようになったと思われる。
(広辞苑より)
→例:数ヶ月(すうかげつ) 十ヶ入り(じっこいり) 三ヶ日(みっかび:地名)
→助動詞「ます」の代わりとして「 」を使うのと同じノリだと思われる。『氷あり 』
今でも「マス」として使われる「記号」(≑絵文字?)
4.
さらに、「我が家」「君が代」のような「~の」を意味する「が」が、
地名として用いられる際に、
おそらく発音が共通だという理由から、
当て字として「ヶ」が使われるようになったと考えられる。
江戸時代までは、
濁音と清音は同じ表記をされることが多かったことも、
この一因ではないかと思われる。
(この由来については調べても見つからないので、これについては朝倉による推測)
→例:戦場ヶ原 関ヶ原 鶴ヶ峰
というわけで、結論。
・「ヵ」と「ヶ」は元々は同じ「箇」で、読み方は「カ」「コ」。
・さらに転じて「ガ」と読まれるようにもなった。
こんなところでしょうか。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義