2020年4月

あすなろ220 擬態-3 ベーツ擬態ミューラー擬態

あすなろ

 
 
 
2020.02号
 
今回もまた擬態の話です。すみません。
 


これまでのお話
その1→擬態-1 カモフラージュ
その2→擬態-2 特殊なカモフラージュ


 
前回は脱線しまくっていましたが、戻します。
擬態には大きく分けて「周囲に紛れる」と「別の動物に化ける」の2種類があるのですが、今回は後者の方です。
ハチのような配色のアブなんてのは、もしかしたら気づいてないかもしれませんが、多分日常的に見かけているはずです。
 


上:ハナアブ
下:ヒラタアブの一種


 

色は確かにハチのようですが、慣れればすぐに見分けられます。
特に違うのは顔です。
アブはハエと同じ仲間ですので、目の大きさや触覚の長さがハチとは大分違います。
 


上:ミツバチ
下:ハナアブ


 
こんなに似ている理由はもちろん、ハチに間違えてもらえれば捕食されにくくなるからです。
これによって、少なくとも両生類のカエルやトカゲ・ヤモリなどの爬虫類からの攻撃は、事前にかわすことができていると思います。
 
ただし、カマキリやクモには全く通じませんので、これで天敵がいなくなるってほど上手くいくわけではありません。
 
ハチのマネをしている昆虫はまだ他にもいっぱいあります。
それだけ、ハチの危険性は、動物界では共通認識となっているということでしょう。
 
ところで、ハチといっても種類はいくつもあります。
しかし、我々が危険だと認識するハチの色は、だいたい黄色(または橙赤色)と黒の縞模様という共通の色をしています。
このように、別の種類でも同じ色になることによって、例えばアシナガバチに刺されたことのあるカエルは、ミツバチにも手を出さなくなります。
このようなケースも、擬態と分類されています。
 
このようのように、カモフラージュ以外の擬態には、大きく分けて2種類あります。
 


ハチ以外が、ハチのマネをする
……「ベーツ(ベイツ)型擬態Batesian mimicry」
 
ハチ同士は、別の種類でも似たような模様になる
……「ミューラー(ミュラー)型擬態Müllerian mimicry」


 
テントウムシも、ミューラー擬態と言えます。
どの種類も共通して黄色・赤・黒系統のまだら模様をしていて、
「食べると苦い」
という警告を発しています。
 
一方で、ベーツ擬態――――つまり「危険生物にマネする無害な生物」の、ハチ以外の例としては、
 
・毒のあるチョウに似る無毒のチョウやガ
・有毒のウミヘビに似た無毒のヘビ
・アリに似たクモやバッタ
 
などという例がよく知られています。
 
「毒のあるチョウ」ったって、そんなのがいるのかと思われるかもしれませんが、います。
普通に塾の近辺でもいます。
例えば、ジャコウアゲハやアサギマダラがそうです。

 


アサギマダラ

 
ジャコウアゲハ(オス)


 
ただし毒とは言っても、ドクガのように、手で触れたらかぶれる、というものではありません。
そういう毒ではなくて、このチョウを食べたときの話です。
どうやらこのチョウは、鳥にとっては食べると「まずい」らしいのです。
辛いのか苦いのかはわかりませんが、なにか特徴的な味なのでしょう。
これらのチョウは、幼虫の時に毒のある食草を食べることで、体内に毒を蓄積しています。
 
……ですから、これと似ていれば鳥に食べられなくなるというわけです。
 
そんないきさつから、ジャコウアゲハとそっくりになったガがいます。
アゲハモドキというガです。
 


ジャコウアゲハ(メス)

 
アゲハモドキ


 
アゲハモドキの大きさは、ジャコウアゲハの前翅長42-60mmに対して、30-37mmしかありません。
ジャコウアゲハを見慣れていると、ぱっと見は、かわいいミニチュアみたいな感じのガです。
我々から見れば違和感はありますが、鳥でしたら十分だませると思います。
 
さて。
この手のネタはきりが無いので、このあたりでもういい加減に、二ヶ月ほど前に書いた、一番最初の話に戻ろうと思います。
 
元々は、こんな話題でした。
 


「人間に擬態して人間社会に生きる異生物」という、まあ最近ではすっかりありがちになってしまった設定の話を読んでいて、そういえば、そういう擬態って実際にもあるのかなあ、なんて思ったわけです。


 
この擬態は、先述した中ではベーツ擬態にあたると思われます。
ハチそっくりに化けるハナアブみたいなヤツですね。
 
ただしベーツ擬態は本来、被擬態種(ハチなど)の危険性を誇示して、第三者からの攻撃を避けるのが目的です。
被擬態種の社会に溶け込むのが目的ではありません。
例えば先に挙げたハナアブは、どれだけミツバチにそっくりになったとしても、ミツバチの集団に紛れてミツバチの巣で生活する、というには、少々無理があります。
 
アリにそっくりのクモもそうです。
 


アリグモ(メス)


 
アリグモは、他のクモ同様に虫を捕って食べていますが、基本的にアリは食べません。
また、アリに紛れてアリの巣に入ったりもしません。
むしろ、アリが近づいてきたら逃げます。
 


実は、アリという昆虫は、自然界では一般的に厄介者・嫌われ者扱いされることが多いのです。
ですから、他にもアリに化けている虫はいます。


 
一方、時々アリを捕食することで知られているアオオビハエトリというクモは、サイズはアリと同じくらいですが、特にアリに似ているわけではありません。
 


アオオビハエトリ


 
やはり、その社会に溶け込む目的で、そこの生き物に擬態するというのは、普通はほぼあり得ないと思います。
人間そっくりのロボットや人形も、人間から見れば、
「なんとなく違う」
「雰囲気が違う」
「人間っぽくない」
などなどと、同種からはすぐにわかっちゃうんですよね。
 
ただ、別の動物の社会に入り込んで、その社会を構成する動物を捕食するという例が、無いというわけではありません。
(寄生は除く)
見た目をその種類そっくりに似せる、ということをしていないだけです。
 
アリで言えば、アリスアブというアブや、ゴマシジミというチョウの幼虫がそれです。
 


上:アリスアブ幼虫(丸い物体)
下:ゴマシジミ幼虫


 
アリスアブの幼虫は、卵からかえるとアリの巣の中に入っていきます。
見た目はとても昆虫には見えないような半球形をしていて、アリにはなぜか攻撃されません。
(もしかしたらアリの攻撃が効かなくて、もう諦められているのかもしれません)
 
巣の中では、おとなしくアリの食べかすを食べていることもあるようですが、時にはアリの幼虫を捕まえて、体液を吸っています。
その時は、この丸い体でアリの幼虫を覆い隠して、こっそりと捕食します。
 
一方ゴマシジミは、最初は巣の外で暮らしているのですが、二令幼虫からはアリによって巣の中に運び込まれて、アリの幼虫などを食べて育ちます。
こちらは、アブラムシのように甘い汁が出せるので、アリはそれにだまされてしまっているわけですね。
(他にも要因があるとされていますが、はっきりとはわかっていないので省略します)
 
てなわけで、結論です。
 
何らかの異生物が、
『人間社会に紛れ込んで人間を食べたいなー』
と思ったら、どんな方法がいい?
 
・方法その1:『アリに無視されるアリスアブのように、目立たない姿になる』
・方法その2:『ゴマシジミのように、愛されるための工夫をする』
 
……とまあ、このあたりが、現実的な方法でしょうね。
人間そっくりに「擬態」して入り込もうってのは、やっぱり無理があると思います。
 
しかしまた別に、こんなのもあります。
別種のアリが巣に紛れ込んで、その巣を乗っ取る、というケースです。
 
例えば、トゲアリというアリがいます。
普通のアリの場合、若い女王アリが最初にすることは、巣を作ることです。
しかしトゲアリの場合は、まず最初にそこいらのムネアカオオアリをとっ捕まえて、そのニオイを自分に移すことから始めます。
次に、ムネアカオオアリの巣に侵入していきます。
うまく女王アリのいるところまでたどり着いたら、そこの女王を殺して、自分が成り代わってしまうのです。
その後は、トゲアリの卵を産み続けていけば、そこは次第にトゲアリの巣に入れ替わってしまう、というわけです。
 
ただしこの方法は、成功率が非常に低いみたいですね。
ハイリスク・ハイリターンの典型でしょう。
 
実を言うと、アリや、その巣に住み着く生き物の習性は実に様々なものがあって、まだまだネタは尽きないのです。
(アリの巣に住む虫には、好蟻性昆虫という名前までついています)
この世界はホント面白いので、そのうちまた取り上げるかもしれません。
 
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義

あすなろ181 蜘蛛の子の散らし方

あすなろ

 
 
 
2016.11号
 
「蜘蛛の子を散らすよう」という言葉があります。
「散り散りになって逃げる様子」を表す言葉です。
しかしここで、なぜクモなのか、何をモチーフにした言葉なのか、そのあたりって案外知られていないらしいんですね。
最近、そんなことに気付きましたので、ちょっと書いてみます。
 
クモは、ほとんどの種類で、卵をまとめて卵嚢(らんのう)という袋に入れておきます。
 
卵嚢という言葉でよく知られているのは、カマキリあたりでしょうか。
カマキリの卵嚢は泡状のタンパク質でできていますが、クモの卵嚢は糸で包むことによって作られます。
 
この時の糸は、卵嚢専用の、ふわふわした糸が使われています。
この状態で巣にくっつけておく種類もいますが、さらに別の丈夫な糸で包み込んで、しっかりとした袋にしておく種類もあります。
 
卵嚢の中で孵化したクモは、中でさらに脱皮して、充分に歩ける状態になってから出てきます。
そしてその後はしばらくの間、近くで子グモ同士固まって暮らします。
ただ集まっているというよりは、本当に文字通り固まって、子グモだけで玉が作られています。
 


子グモの集団と卵嚢
青緑っぽいのが卵嚢



多分、オニグモだと思う。
近くに親がいたので。


前の画像の一部を拡大したもの
黒い部分は玉状に固まる子グモだとわかる


 
この状態のことを、クモのまどい(団居)と言います。
 
そんな状態のクモは、ちょっと指先で触れたり、または風に吹かれたりすると、びっくりしてワラワラと散り始めます。
 
これが、「蜘蛛の子を散らすよう」という様子です。
これが元ネタなんです。
 
驚いて散り始めたクモは、少しすると戻ってきて、元のような団子になります。
 
そして、しばらくそんな生活をした後、子グモは自分の糸を風になびかせて、それをタンポポの綿毛のようにして、風に乗って飛んで行きます。
そこからは、新しい世界で一人暮らしが始まるわけです。
 
ということで、慣用句というかことわざというか、冒頭の言葉の説明は終わりなのですが……。
これがですね、笑っちゃうんですよ。
 
ちょっと広辞苑を開いてみますね。
 


・広辞苑 第三版(昭和五八年版)
(蜘蛛の子の入っている袋を破ると多くの子が四方に散ることから)群衆などがちりぢりばらばらに逃げ散るさまなどにいう。


 
ぶははははははは!
 
なんだそれ!
なぜわざわざ袋を破る?
 
確かにクモは、前述の通り卵嚢の中で孵化しますから、卵嚢を破ると中から子グモが出てくることはあります。
でも、卵嚢はそこそこ丈夫にできていますので、わざわざ両手でつまんで引きちぎったりしない限り、何かの拍子についうっかり破れる、なんてことはありません。
 
ああ、小学生ならいいですよ。
私も小学生の頃にやりましたから。
 
でもわざわざそんなことをしなくても、クモのまどいを見たことがあれば、絶対にすぐにわかることなんですよね。
可哀想に、広辞苑の編集スタッフは、きっと誰も知らなかったのでしょうね。
 
一方、クモのまどいについて書かれているウェブサイトでは、ほぼ漏れなく
「『蜘蛛の子を散らす』とはこれのこと」
などの記述があります。
 
で・す・よ・ねー。
 
だって、まどいそのものを見れば、そんなのは一発で理解しますから。
 
試しに、他の国語辞典も見てみますね。
 


・大辞泉 第一版(一九九五年)
《蜘蛛の子の入っている袋を破ると、蜘蛛の子が四方八方に散るところから》大勢のものが散りぢりになって逃げていくことのたとえ。「悪童どもは―・すように逃げ去った」


 
広辞苑とほぼ同じ。
袋を破っていますね。
 
手許にある他の辞書も開いてみます。
 
北原学長の明鏡
――――――同じく袋破ってます。
 
新解さんこと新明解
――――――袋破ってます。
 
大野晋先生の角川
――――――袋破ってます。
 
期待してない明治書院
――――――やっぱり袋破ってます。
 
子供用ベネッセ
――――――言葉の意味の説明はあるのですが、なぜクモなのか全く触れず。
 
そして旺文社の大ことわざ辞典である成語林
――――――期待していたのにまさかの袋破り。がっかりだよお前には。
 
さらには、日本で最初の辞書と呼ばれている「言海」も調べてみたのですが、この語自体が掲載されていないようです。
期待したんだけど残念。
 


ところで、広辞苑は戦後の辞書なのですが、初版の発売当初は爆発的に売れた本でした。
ですから、その後の他の辞書は、広辞苑を参考にして編んだ可能性が非常に高いです。
となると、この一連の元凶は、広辞苑にあたる可能性があるなあ、なんて思っています。
真相はわかりませんが。


 
まあ、その犯人はともかくそんなわけで、クモの生態を知らない国語学者様たちは、今日もせっせとクモの袋を破り続けているというわけです。
国語学者ってのも大変ですねえ。
まどいをつつけばそれで済む話なのに。
 
さて。
この蜘蛛の子の話から、いつも連想する表現があります。
 
宮沢賢治『注文の多い料理店』。
超有名な話ですが、その一部より。
 


風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。


 
多分、聞いたことがあると思います。
このうち、問題は木の「ごとんごとんと鳴りました」という部分です。
 
これ、何の事だと思いますか。
 
木って、鳴るんですよ。「ゴンッ!」って。
 
強風の日に森に入ると、高い所から響いてくることが、ごくたまにあります。
 
隣同士の木がぶつかっているのか、それとも、普段はもたれかかっている幹が風に煽られて一瞬離れてぶつかるのか、そのあたりまではわかりません。
しかし、確かに鳴ります。
そして鳴るためには、風が「どう」というほど一気に吹いてくる必要があります。
 
強い風が吹いたとき、竹林がカラカラと鳴るのを聞いたことがあるでしょうか。
あれも、竹同士がぶつかって鳴る音なのですが、それの樹木版だと思ってください。
 
賢治は、それを体験していたのです。
だからこそ、この表現が出てきたのでしょう。
これと同様の表現は、『風の又三郎』でも見られます。
 
しかし、それを研究している文学屋さんは、そんなことを知らないので、
「賢治独特の斬新な表現」
とか書いちゃうわけですね。
その頭の中では、
「賢治ってのは想像力豊かだから、きっと現実にはあり得ない音も聞こえてるんだろうなあ」
なんて思っちゃっているってことが、アリアリと読み取れます。
 
一方、これが実際に聞こえる音を表現したものだ、という言及は、これまでに全く見たことがありません。
ネット上でも同様です。
かなり調べまくったのですが、全くありませんでした。
(2016年11月)
 
それどころか、賢治を他言語に翻訳する際に、
「風が強く吹いて、草が鳴り、木の葉が鳴った」
という文にしてしまって、木の音を無かったものとしてしまった例まで見かけました。
ノイズか何かと思ったのでしょうか。
 
私は、この賢治の表現の真意については、全く誰からも教えてもらっていません。
あるとき森の中で、自分の耳でその音を聞いて、
「これがそうだったのか!」
と、初めて本当の意味を理解したのです。
 
もっと外を歩きましょうよ。
そうすれば、もうクモの袋を破らなくてもいいのです。
 
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義

2020年度 入試結果

その他

 
 
 
-----2020年度入試結果-----
 
◆◆◆小学生:中学受験/受検(全3人)◆◆◆
・東京大学教育学部附属中等教育学校 ×1
・古河中等教育学校         ×2

「古河中等合格100%」を
うたっている塾があるようですね。
当塾も、5年間は合格100%でした。
※ ちなみに、1人受けて1人合格でも100%です。

 
◆◆◆中学生:高校受験(全11人)◆◆◆
・小山工業高等専門学校   ×1
・下妻第一高等学校     ×8
・下館第一高等学校     ×2
……その他、本命以外の私立高
 
おかげさまで高校受験は、最近3年間を累計しますと
26人中19人(73%)が下妻一高に進学しました。
(下館一・土浦一・小山高専も合わせると92%です)
また2019年度は、受験生(8人)の100%が下妻一高へ進学しています。
 
◆◆◆高校生:大学受験(全9人)◆◆◆
・千葉大学        ×1
・琉球大学        ×1
・前橋工科大学      ×1
・明治大学        ×1
・東京理科大学      ×1
・順天堂大学       ×1
・東洋大学        ×2
・武蔵野美術大学     ×1
・多摩美術大学      ×1
・明星大学        ×1
……他、滑り止めなど
 
ありがとうございました。