2020年3月

あすなろ173 おでん

あすなろ

 
 
 
2016.03号
 
少し前のこと、この場でちらし寿司のお話をしたことがあります。
(2015.06:No.164)
 
その回は「俺の食いたいちらし寿司が売ってないぞギャー」という内容だったのですが、同じような代物はまだ他にもあります。
例えば、おでんとかおでんとか。
 
おでんで画像検索すると、ウィキを初めとしてこんなのが出てくるわけですが、
 



 
違う違うぼくのおでんは違う。
こんなに汁に色はつかないし、そもそも油っぽい具が入っている時点で私の知るおでんとは別物です。
 
いいですか、教えてあげます。
こういうのは、
 
「関東煮(かんとうだき)」
 
というのです。
 
……と書こうとしたら、日本語変換ソフトとしては賢いと思っていたATOK2013が関東煮という単語を知らないし、どうなってるんでしょうか。
私はこの読み方を小学生の頃に教わりましたし、神社のお祭りでは関東煮と書いた屋台を見たものですが。
 
おでんという名の由来は、「田楽(でんがく)」から来ています。
では田楽とは何かというと、農村に伝わる伝統芸能での一つです。
元はおそらく「一年の仕事始めの儀式」だとか「神へ捧げるの豊年の踊り」あたりではないかと思われるのですが、実際の起源は古すぎてよくわからないそうです。
 
その田楽の中で、「一本高足」という踊りがあります。
 


田楽踊り 一本高足(茨城県金砂神社)


 
一本の竹馬のようなものに乗って跳ねる踊りですが、その姿と似ている食べ物であるということで、串焼きの豆腐を田楽と呼ぶようになったとのことです。
 


田楽豆腐(味噌田楽)

味噌をつけて食べます。
発祥は上方(関西)のようです。


 

そこから発展して、豆腐以外の野菜などの串焼きに味噌をつけた料理も、一様に田楽と呼ぶようになります。
 
それがそのうちに、串に刺して味噌を付けたら田楽だ、というような解釈が広がって、
「ゆでた串物に味噌をつけたものが田楽」
と変化していきます。
 
すると今度は、最初から煮汁に味噌をぶち込む奴が現れます。
これが名古屋あたりで見られる「味噌おでん」となります。
 


味噌おでん


 

味噌おでんはその後、「味噌煮込みうどん」や「ドテ煮」という料理にも発展しました。
ドテ煮というのは愛知県の郷土料理で、赤だしの甘味噌で煮込んだもつ煮込みのことです。
ドテ煮は私の実家でもよく作っていました。
 


ドテ煮(土手煮)

具は違いますが、基本は味噌おでんと同じです。


 

さらにここから、味噌の代わりに醤油味で作るものが登場します。
これが関東で食べられた関東煮、通称「おでん」のことです。
 
ただし、今コンビニで見かける「おでん」の汁は透明に近いのですが、本来の関東煮はもっと醤油で色が濃いものでした。
しかし店売りの際に、中身がよく見えるようにと関西風の透明な汁を採用したのだとのことです。
 
と、田楽から「おでん」までの流れはだいたいこんな感じなのですが、私の実家で作られていたおでんは、この途中にあった
「ゆでた串物に味噌をつけたもの」
でした。
 
具材は、大根とコンニャクと、豆腐?ちくわ?ゆで卵?と既に怪しい記憶しか残っておりませんが、そんなものを昆布出汁だけで煮て、自分で味噌をつけて食べる料理です。
 
味噌は、三河味噌(赤だし)を甘くしたもので、五平餅の味噌と同様です。
味噌カツのタレも、もしかしたら同じかもしれません。
 


五平餅
岐阜~長野の郷土料理
飯を板につけて味噌で焼く

 
味噌カツ
名古屋名物として有名らしい


 

こんな風に書くと、私のおでんは関東では全く縁の無いもののようですが、「単品」ならばそうでもありません。
例えばコンニャクだけならば「味噌コンニャク」として群馬のコンニャク屋さんや秋田・福島の味噌屋さんで宣伝されていますし、大根は、関東では「風呂吹き大根」という名前を付けられています。
風呂吹き大根という料理は、関東に来るまでは全く知らなかったのですが、これが正に「おでん」なのですよ、私にとっては。
 


味噌コンニャク

 
風呂吹き大根


 

ただ、風呂吹き大根を調べていくと、味噌の代わりに「肉そぼろあんかけ」なんてものもあることがわかりました。
でも私に言わせると、それは冬瓜(とうがん)の食い方だろ、と。
 
あ、冬瓜というのはでかいウリです。
カボチャのように冬に食べる夏野菜です。
あんかけで食します。
現時点では関東で見かけない食材ですが、茨城の農家なら、そのうち生産を始めてくれると信じていますよ。
水菜(みずな)のように、ね。
 
※水菜は、ほんの二十年前までは、茨城ではどこにも売ってないような関西系野菜だったのですが、今では茨城が生産高全国一です。
茨城の農業パワーが半端ないことを証明する好例です。
 


冬瓜


 

ところで、「Oden」で画像検索すると、片目片足で槍を持ったこわいおじさんが出てくることがありますが、これは北欧神話の
「オーディーン」
です。
おでん好きのおじさんというではありません。
 
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義

あすなろ219 擬態-2 特殊なカモフラージュ

あすなろ

 
 
 
2020.01号
 
擬態とかカモフラージュとかの話の続きです。


これまでのお話→擬態-1 カモフラージュ


 
前回はカモフラージュの例として、主に周囲に紛れる話をしていたのですが、別に景色に溶け込む必要は無い、という開き直ったカモフラージュもあります。
例えば、シマウマの縞模様です。
 
シマウマは、遠くで多数の個体が群れていると、どちらを向いているのか判別しにくいことがあります。
すると、そこにいることがわかっても、個体の形が識別できなければ、逃げる方向を予測できないので、捕食者は攻撃が一手遅れることになります。
 
そういうわけで、シマウマの縞は、決して周りの景色に紛れるためではないと考えられています。
 



 

ただし、縞模様の動物がすべて同じ効果を狙っているというわけではありません。
例えばトラの縞は、明らかに周囲の風景に紛れるためのものです。
 



 
シマウマ効果の応用は、かつて軍艦の塗装に用いられていたことがありました。
これは「ダズル迷彩」と呼ばれています。
 
船ってのは巨大なので、兵隊や戦車などと違って、見えなくなるようにするのは絶対に無理です。
しかし塗色によって、進行方向を錯覚させることができれば、少しでも攻撃をかわせるのではないか、という発想です。
 


ダズル迷彩を施した軍艦


 

第一次世界大戦の頃(大正時代)までは、船が受ける攻撃といえば敵艦からの砲撃か、潜水艦からの魚雷でした。
大砲の大型化により、離れた距離からの撃ち合いとなってきますと、発射から着弾までは少し時間がかかります。
そこで、望遠鏡や双眼鏡で目視しながら、現在の位置よりも少し前方に向かって撃つとちょうど命中する、というようになってくるわけです。
ですから、進行方向がわからないと当てられないだろう、という理屈です。
実際に、ある程度の効果はあったようです。
 
ただ第二次世界大戦中からは、航空機による至近距離からの攻撃が主力になったり、レーダーが発達して目視に頼らなくなったために、こういう塗装も役に立たなくなってきました。
 
現在の軍艦は各国とも、灰色の単色塗装に戻っています。
これが一番無難に目立たない色のようです。
 
かつての軍艦と同様の発想かはわかりませんが、体の向きをわからなくするための「擬態」は、昆虫でも時々見られます。
 
こちらは、シャチホコガというガの一種の幼虫です。
左側に目玉が見えますが、これは単なる模様で、右が前、左が後ろです。

 


シャチホコガの一種(コスタリカ)


 
なお、この幼虫は、さらに擬態を完全にするために、後ろ向きに進むこともあるということです。
 
実は昆虫には、「前後をわからなくするための擬態?」と言われている例が、他にも多数あります。
その理由については、
「頭をやられないため」
「敵の裏をかいて逃げるため」
などと様々な意見を見かけますが、私個人的には、ちょっと違うと思っています。
上記の理由は単なる結果論で、
「使える部品を使ったら、たまたまそうなった」
というあたりが真相ではないかと考えています。
 
このあたり、書き出すと長くなりそうですので、今回はこのあたりで。
 
ちなみに、日本のシャチホコガはこんな姿です。
イモムシなのに足の長い、変なやつです。
ウチの近所にも普通にいます。
 


上:成虫 下:幼虫(左が頭)


 

こちらもコスタリカのと同様に、尾端は何かの頭に擬態しているような形をしています。
しかし、刺激を与えると体を反らして、こういう格好になります。
 



 

すごい形です。
何が目的でこんな形になっちゃったんでしょうね。
 
でもこうなると、一般的なイモムシ・ケムシには見えなくなるので、それによって捕食者の目から逃れ易くなる、ということかもしれません。
 
えーと。
 
擬態からはどんどん話が逸れていっていますが、あともう一つだけ、姿を消すための特殊な「カモフラージュ」をご紹介します。
姿形ではなく、動きによって景色に紛れるという方法です。
 
「モーションカモフラージュmotion camouflage」というのですが、日本語版のウィキペディアには項目がありません。
最初に発見されたのが1995年ということもあって、まだマイナーな言葉です。
 
飛行している虫や鳥にとって、周囲の風景は常に流れています。
このとき、その景色に合わせてうまく移動できれば、相手にとっては静止しているように見えるはずです。
これは、そういった位置を保ちながらターゲットに近づく方法で、最初はハナアブのオスがメスに寄っていく飛行ルートの解析によって発見されました。
後には、トンボが獲物を狩る際にも、同様の飛び方をすることが見つかっています。
 


赤:目標(エサなど)
青:古典的追跡法
緑:モーションカモフラージュ


 

移動中の目標(赤い点)に対して、まっすぐに向かっていくと青い線を描くことになります。
それに対して、常に「目標」と「起点」を結ぶ線上にいながら接近するのが、緑のルートです。
目標からは、周囲を流れていく風景に紛れて、一点に止まっているようにしか見えないので、接近に気づきにくくなります。
 


実際の観測データより

 
起点の手前に位置すること(左図)以外にも、奥に重なることで「消える」方法(右図)もあります。

→逃げるときに有効なのか?
ちゃんと論文読んでないのでわかりません。英語だし。


 

一方、コウモリやハヤブサでは、獲物に対して平行な位置を保ちながら接近することで、やはり見つかりにくくなるという方法をとっているようです。
 



 

鳥類や哺乳類がこちらの方法であるのは恐らく、トンボのようなマネは絶対にできないからなのでしょう。
 
というのも、先ほどのトンボ式モーションカモフラージュを実現するためには、
「目標と起点を同時に見つつ、目標との距離を測れること」
が求められるからです。
そのためには、
「右目と左目の視野が重なった部分を見ながら、同時にその反対側も見る」
という芸当が必要で、それは鳥やケモノでは、頭と目の構造的に不可能なのです。
 


左右の視野が重なると、距離を測ることができる。


 
しかし、
「視野が重なった方向に目標を見据えつつ、その逆方向の起点を見て位置を確認する」
ということは、これらの動物では不可能。
でもトンボならできるんですね。


 

すみませんが、もう一回だけ続きます。
 
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義


続き
その3→擬態-3 ベーツ擬態ミューラー擬態